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徹底して〝語の意味〟追求
――9年ぶりの改訂でアピールしたい点は何ですか。
山本さん 「新明解国語辞典」は、前身の「明解国語辞典」(1943年初版刊行)から数えると80年近く歴史のある辞書です。1972年の初版刊行からでも約50年、一貫して〝語の意味とは何か〟を追求しており、それがアイデンティティーになっています。
今回は「考える辞書」というコンセプトを打ち出しました。今の時代で、思索を深めること、コミュニケーションを図ること。SNS(ネット交流サービス)で言葉のすれ違いが起きたり、意味が正しく伝わっていない場面が多くなる中で、言葉の果たすべき役割とは何か。言葉の意味を深く理解する読解力に改めて注目して、「考える辞書宣言」を掲げています。
第8版の「序」のタイトルは「日本語の的確な使用のために」です。日本語の的確な使用のため、国語辞典には何ができるのかということを改めて訴えたい。それは言葉に向き合うこと、言葉の意味、用法を突き詰めて考えることだと思います。
吉村さん 前身として「明解」があり、他にもいわゆる〝字引〟のようなものはたくさんありましたが、その中で「新明解」の誕生には、今までにない辞書をつくる、という方針がありました。同じものをつくってもしょうがない。それまでにはない〝言葉で言葉を説明する〟辞書をつくろう、と。そういった編者の意気込みをもとにスタートして、以来ずっと貫かれている精神です。
語義を細かく分類するのではなく、なるべく大きく中心を捉える。それをモットーに、編者たちが頭を絞って語釈を形作っていきました。それで初版が出たときに、〝今までにない辞書〟ということで大変話題になったと聞いています。もちろん「明解」は引き継いでいますが、「新」がついたところでだいぶ大きく変わった点だと思います。
意味の「中心」捉える語釈
新明国は、意味の「中心」をしっかり捉える語釈が大きな特徴です。大分類方式で、意味の根本を捉えてそこから派生させる。その結果、ブランチ(枝分かれした語義の区分)も多くはありません。
「きまる」の語釈では、中心的な意味、ニュアンスをきっちり表現するという点で「いくつかの選択の可能性がある中から」という一文が効いてきます。
「かたむく」では「(平衡が)期待されるものが、何かの事情で」という意味を記述することが重要です。このように新明国の語釈は深く、精緻で、語の意味するところを考え抜いた語釈といえます。
ユニークととらえられることがあるのですが(笑い)、とにかく徹底して語の意味を追求する。他の辞書と比べて差別化されるところだと思います。
突き詰めた結果が「面白い語釈」に
吉村さん 大きなくくりで中心の意味を説明しようとするので、新明国は語釈が長くなる傾向があり、学校などに宣伝に行くと「語釈が長くてうちの生徒には読み切れない」などと言われてしまうこともあります。長いといっても5行から10行なんですけどね。
国語はすべての教科の根底となるものですし、いちばん身近な書物の意味を調べる機会は必ずあるわけですから、長いなんていわずに語釈を読んでみてほしいです。それが読解力に結びついていくのではないかなと。
〝言葉で言葉を説明する〟という最初の精神は今でも息づいていて、役に立つものだと思っています。語釈がひと味違うというか、まねできないものになって、皆さんに興味を持ってもらっているのではないかと思います。
ユニークな語釈だ、などと笑いを伴ってテレビなどで取り上げられることも多いのですが、別に笑いをとろうと思って語釈をつくっているわけではなくて、真剣に語の意味を突き詰めた結果なんです。
先ほどの「とうもろこし」も、粒がきれいに並んでいる様子をいかに表現するか、どうすれば言葉でわかってもらえるかと、考え抜いた結果出てきた表現です。他の辞書はあまりそこまではしませんよね。挿絵を入れてしまったほうが早いとか、トウモロコシだって1種類ではないとか、いろいろありますが。
山本さん あくまで徹底して語の意味、語の表すものを描ききろう、というのが新明国の精神であり、そういう点では他の追随を許さないものだと思います。
変わっているといえば変わっているところですが、これはなかなか大変で、一朝一夕、十年二十年ではできないことです。これまでの積み重ねと、新明国の精神、方法論がなせるわざだと思っています。
【まとめ・塩川まりこ】
〈新明解国語辞典8版インタビュー〉