きっかけは出版の分野で活躍する校閲者の方々に毎日新聞の校閲現場を案内している時でした。
「これは会社の財産ですね。ぜひ公開してほしい」
「校閲者や司書は泣いて喜ぶと思いますよ」
毎日新聞の校閲センター内で共有しているインターネットサイトのリンク集のことです。私たちの仕事に合わせて作ってきたので一般にどこまで役に立つか分かりませんが、そのような声をいただいたため、どなたでもアクセスできる部分などを公開することにしました。
このリンク集の始まりは2009年ごろ。米国の雇用統計や消費者物価指数など、一から調べると手間がかかる経済関係の情報を早く調べるためでした。そこからスポーツなどデータが豊富に使われる記事などでもリンクがまとまってあれば便利だということで徐々に分野が広がり、数が増えていきました。
そもそもなぜリンク集が必要なのかというと、時代の変化とともに校閲記者の役割も変わっていったことが関係します。もちろん誤字脱字を直すことや分かりやすい文章に整えることが基本であることに変わりはありません。しかしインターネットの発達によりタイムリーに多くのことを調べられるようになった結果、事実関係や数字などの誤りを指摘することの比重が増していったのです。
ただしインターネットの膨大な情報量がかえって正確性を測りかねたり、遠回りになったりしてしまうということもあります。これは調べられることが増えているにもかかわらず校閲に与えられる時間が増えているわけではない現状では致命的です。従って「このサイトならこれが調べられる」といった「引き出し」が効率化、時間短縮に有効といえます。その引き出しを共有しようというのがリンク集のねらいです。
このページでは、実際の使い方をイメージしやすいよう、実際の記事の内容確認を交えながらリンク集にあるサイトからいくつか紹介します。リンク集と併せ校閲に関わらない方も何かを調べる際、一助になれば幸いです。
日々更新し有用な情報を発信しているサイト運営者の方々に感謝いたします。
目次
法律・政治
国会会議録検索システム
このサイトは日付や発言者、会議の種類、フリーワードから過去の会議録を調べることができます(収録まで2~3週間)。フリーワード検索で「沖縄処分」と打ち込むと記事が正しいことが確認できます。誤った発言も含めてこれだけ細かい議事録があるので重要な手がかりとなり得ます。
e-Gov法令検索
このサイトは六法全書にない法令も載っていてとても便利です。もちろんグーグルなどの検索サイトで「自衛隊法97条」などと直接入力しても得られる内容はほとんど同じだと思いますが、確実に原文に当たりたい時にはこのサイトがおすすめです。
国際関係
CIA WORLD LEADERS
離脱合意案に反対して辞任したラーブEU離脱担当相とマクベイ雇用・年金相の後任は、いずれもメイ氏に近いバークレイ保健担当閣外相とラッド前内相。
このサイトは各国の首脳、閣僚を確認することができます。マイナーな国・担当相も記載されているので検索サイトであまりヒットしないような人も調べられるので便利です。しかも、つづりが分からず検索すること自体に時間を使ってしまうという問題も解消できます。更新は数カ月ごとではありますが、これだけ網羅的に情報が載っているので心強いことに変わりはありません。
経済
米雇用統計
冒頭でもあった米雇用統計です。労働省までたどり着いてもお目当ての数字を見つけるのは一苦労です。「CES News Releases」の「Archived Employment Situation」から該当の年月の雇用統計に飛ぶことができます。「20」と「311」(単位は1000人のため)がようやく見つかるとほっとします。英語に堪能な方なら別なのかもしれませんが、外国のデータを調べるには「このサイトのここでこの数字が調べられる」ということを把握しなければなりません。
スポーツ
スポーツナビ
運動記事はたった数行の記事でも名前や数字などが多く、調べる量は多くなります。このサイトはさまざまなスポーツの情報を速報してくれるのでスポーツ面担当の日は欠かせません。結果や出場選手が載っているサイトは数多くありますが、このサイトは一目で多くの情報が得られ、詳細に試合経過を載せているという点で優れています。(下の画像はアプリ版)
女子テニス協会
全豪オープン準々決勝で大坂なおみがエリナ・スビトリナに勝利しベスト4進出を決めたという記事。このサイトでは名前を打ち込むだけで過去の対戦成績、試合した日にちやスコアなど詳細なデータが得られます。
運動記事では過去の成績が頻出するためこうしたサイトの存在はありがたいです。
※この試合で大坂が勝利した記録が更新されているので3勝3敗となっている。
FIFA World Cup Archive(国際サッカー連盟)
敗退したのはいずれも最終戦で敗れた試合で、2002年の南アフリカ、コスタリカ、カメルーン、06年の韓国、10年のスロベニア。南アフリカ、コスタリカは勝ち点で2位と並びながら、それぞれ総得点、得失点差で涙をのんだ。
調べることを考えると思わず尻込みしてしまうこの記事。昨年のサッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会で日本代表が1次リーグ2戦を終えて1勝1分けの勝ち点4という状況で、決勝トーナメント進出の可能性を考察した内容です。
98~14年のW杯の1次リーグで勝ち点4以上の国を見つけたら1、2試合目の結果を確認し数えて、33という数字が正しいかを調べます。同時に勝ち点4で3位以下になっている国を探し(勝ち点5以上は2位以上が確定のため)、2段落目の内容が正しいかを確認するという地道な方法を取りました。
信頼できるサイトだという前提があるからこその方法だと思います。
その他
過去の気象データ検索(気象庁)
気象情報と数字はセットで記事になります。訂正と数字の事実誤認もまた切っても切れない関係です。つまり校閲記者にとって調べずにはいかない気象情報。もちろん気象庁がホームページで細かい数字を載せていることは多くの人が知っていることだと思います。しかし使い方に精通している人ばかりかというとそうではないでしょう。
我々が特に使うのは地点を選択するとその地点の観測史上1~10位の値が分かるというもの。地点によって種類は変わりますが、気温や降水量、日照時間など多くのデータが載っており、その情報量に圧倒されます。自分の住んでいる地域の過去の記録を見るだけでも面白いのではないでしょうか。
市町村合併の実績(総務省)
東京都三鷹市役所の警備員だった1977年9月、「旅行に行く」と言って公休を取った。同僚に「今、宇奈月温泉(富山県)にいる」と電話をかけたが、その直後の同19日に石川県能都町(現能登町)の宇出津(うしつ)海岸で北朝鮮の工作員に拉致された。
久米さんは当時、東京都保谷市(現西東京市)で暮らしていたが、在日朝鮮人の男に「大きなもうけ口がある」と誘い出された。
1度目の米朝首脳会談前に拉致問題の全体像をまとめた記事。久米裕さんは最初の拉致事件の被害者です。このサイトで調べられるのは石川県能都町(現能登町)、東京都保谷市(現西東京市)という部分。地名の表記はもちろん、合併した時期も同時に見られるので時間を節約することができます。
インターネットの進化によって調べられることは増えました。しかし、調べがつくことを見落とせば校閲記者の失点でもあり、それは常に恐怖です。また、インターネットがあっても調べられないことが無数にあることも事実。調べられることなのか、そうではないのかを見極め、インターネットとうまく付き合っていくことが誤りのない記事を読者に届けることにつながるのかなと思います。
【本間浩之】