2024年9月の「国語辞典ナイト20」をリポートします。12月の「三省堂辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2024』meets国語辞典ナイト」の前の回です。テーマを「今こそ断言しよう 辞書は誰でも作れる!」とぶちあげ、ゲストは毎日ことばplusでもおなじみの柏野和佳子さん。半年近くたちましたが、あの楽しさがよみがえる!
2024年9月23日昼、東京・渋谷で開かれた「国語辞典ナイト20」。毎日新聞校閲センターの部員も参加してきました。先日リポートが掲載された12月の「三省堂辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2024』meets国語辞典ナイト」でなく、その前の回の国語辞典ナイトです。このときは「ナイト」と掲げながら、白昼堂々の開催。国語辞典好きによる、国語辞典好きのためのイベントの、記念すべき第20回です。
【神尾春香】
今回も、司会のエッセイスト、古賀及子さんと、ライターの西村まさゆきさん、三省堂国語辞典(三国)編集委員の飯間浩明さん、辞書マニアで校閲者の稲川智樹さん、辞書マニアで校閲者の見坊行徳さんのレギュラーメンバー4人とが集結しました。開始時刻になり、さっそくオープニングのスライドが始まります。
目次
飯間さんの「国語辞典NEWS」
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ニュース番組をほうふつさせるような凝ったロゴ。スライドでロゴに凝るのは恒例だそうだ。人物は左から古賀及子さん、西村まさゆきさん、飯間浩明さん、稲川智樹さん、見坊行徳さん
飯間さんが前回の国語辞典ナイト19(24年5月)以後の数カ月に起きた辞書関連のニュースを紹介していきます。特に気になったのは……
「『日国』第3版 2032年公開へ」
日本で唯一の大型辞書「日本国語大辞典」(日国)の新版、楽しみですね!
毎日新聞社の校閲部室にも、もちろん全巻そろっています。「日国にも載っていない」というのは直しを出す上での大きな判断材料になり、校閲者にとって頼りになる存在です。完成予定は32年とまだまだ先の話ですが、27年にはバージョン2.1を公開、以降段階的にバージョンアップしていく模様(公式サイトより)。しばらくは日国から目が離せなそうです。
ちなみに、日国第3版については毎日新聞でも記事(約30年ぶりの大改訂へ 『日本国語大辞典』 言葉の歴史 より古く、より新しく)になっています。取材のため小学館の辞書編集室を訪ねたのは、少し前まで校閲センターの同僚だった浜田和子記者。有料記事ですが、よろしければこちらもご覧ください。
ゲストは柏野和佳子さん!
続いて今回のゲストの紹介。
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ゲストの柏野和佳子さん(左から2人目)
国立国語研究所准教授の柏野和佳子さんです。コンピューターを使用した理論的なアプローチで日本語の研究を行っていた水谷静夫氏に師事。水谷氏は日本語でコンピューター言語(プログラミング言語)を開発した方で、柏野さんも卒業論文で、指示語の指示先を特定するプログラムを作成したそうです。
ネット上で閲覧できるコーパス(体系的に収集された言語データベース)の少納言・中納言・大納言(開発用)に関わってきた方です。「岩波国語辞典」8版の編者の一人で、「広辞苑」7版では国語関係項目を校閲・執筆したそうです。
ここで今回のテーマ「辞書は誰でも作れる」の企画。三つの単語がお題として出され、観客・視聴者が自身で語釈を考えるよう促されました。お題はこちら。
「ごはん」「おちゃめ」「アイドル」
語釈は回答フォームを通じて登壇者側に送信できます。(筆者は、迷っている間に送るタイミングをのがしてしまったのですが……)
集まった語釈については、後ほど。
見坊さん、国語辞典ナイトの10年振り返り
さて、恒例のレギュラーメンバーによるプレゼンタイムに入ります。トップバッターは見坊さん。
「国語辞典ナイトの10年間」と題して、これまでの回を振り返ります。
最初は第1回……ではなく、14年7月のとあるネット記事。「国語辞典の語釈をたよりにコロッケをつくる」
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タイトルからもうおもしろい
書いたのは本イベントのレギュラーメンバーでもある西村さん。「国語辞典ナイト」はこの記事がきっかけだとか。すべてはここからはじまった。
その後は第1回から順に振り返っていきます。どの回もおもしろそう!なのですが、ここでは割愛。ちなみに第7回は我らが平山泉デスク(現・用語幹事)がゲスト登壇した「校正・校閲スペシャル!!」でした。
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「辞書こそ校閲についてこい!」って、めちゃくちゃ強気だな……このスライドは稲川智樹さんが作成したものだそうなので、これは稲川さんの言葉
今回が10年目・第20回の節目です。筆者自身は初参加だったのですが、イベントに歴史あり。過去の回も見てみたくなりました。
西村さん、「北千住国語辞典」と国語辞典ナイト
次は西村さん。<『北千住国語辞典』と「国語辞典ナイト」エピソード0>と題し、14年11月の「国語辞典ナイト」第1回の2カ月前に東京都足立区で行われた「辞書作り体験」のワークショップについてです。
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シンプルなタイトル画面なのになんだかカッコイイ。これがライターの力か
まちに出て、辞書に載っていなそうな、気になる言葉を採集していきます。想像以上に、たくさんの用例が採集できたようです。
特に筆者も気になったのは「やらかい」。青果店の店頭でしょうか、梨の手書きの値札に書かれていました。「やわらかい」が縮まったもののようです。
SMAPの曲の歌詞にもあるそうです。筆者も別の曲の歌詞で耳にし、「『わ』どこいった?」と首をひねったことがありました。
いずれも歌詞で遭遇しているのが気になるところ。「やわらかい」は5文字・5音(「かい」を一度に言えば4音?)で、歌詞にねじ込むには少し音が多く、「やらかい」に短縮されがちなのでしょうか。値札も、スペースには限りがあるため短くしたいという心理が働きそうです。
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味のある値札。空いたスペースに「やらかい」をねじ込んだ感がある……?
なお、のちに三国8版で立項されたそうです。
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さっすが三国!
他にもご紹介しきれなかったものがたくさん。言葉を探そうという意識を持って見回すと、街は想像以上におもしろい言葉であふれているようです。外に出るのが少し楽しくなるかも。
またまだ続く真昼のナイト。3人目の飯間さんからは、次回のリポートで紹介しますね。
(後編につづく)
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