三ケ月(みかづき)はそるぞ寒さは冴(さ)えかへる――小林一茶
先日、過去の新聞をめくっていたら目に留まった。1年前の3月19日に掲載された毎日新聞連載「季語刻々」の一句だ。季語は三日月ではなく「さえ返る」で春(ちなみに三日月は秋の季語)。坪内稔典さんは「気候の上では寒暖を反復して春が深まる。今日の句、戻った寒さで三日月が硬直した感じ」と評した。当時の紙面を見ていたら、ふとロンドン・オリンピック後に読んだ原稿を思い出した。
昨夏のロンドン大会で男子個人は銀メダル、女子団体では銅メダルに輝いたアーチェリー。五輪から約2カ月後、日本の活躍の背景を探る記事が大阪本社版の紙面に載った。「川中香緒里選手(近大)は入学時、筋力不足で矢の軌道が不安定だったが、コーチの指導でトレーニングに励んだ結果、『体幹も鍛えられ、速くて安定した軌道で矢が飛ぶようになった』と川中選手」。ところが元の原稿では「弓の軌道、弓が飛ぶ」と書かれていた。記者が弓と矢を混同したのだろうが、1字違いで大違いだ。速やかに直しを入れて事なきを得たが、ぼんやりと読んでいたら見逃したかもしれないと、そのとき思ったものだ。
こんなことを思い出したのも、弓張り月を連想したからだ。弓張り月とは、弓に弦を張ったような形をしている月のことで半月を指す。また半月は弦月とも、月齢によって上弦、下弦ともいう。そういえば、何年か前に本紙クロスワードパズルの問題を点検していたとき、弦には半月の意味もあることを知った。「半月の直線部は?」というヒントに対して、答えは弦。辞書を引いてみると「半月の両端を結んだ直線」とするものもあるが、広辞苑は「月相が半円形に見えるもの。弦月」と載せていた。弓のつるから派生して、半月自体も指すようになったのだろう。
まもなく春本番。前掲の季語刻々で坪内さんは「関西では、奈良のお水取り、大相撲の春場所、選抜高校野球などを経て春が深まる」とも述べた。そうだ、春の陽気に誘われてたまには外に出て月を見上げてみようかな。今日の月はどんな形をしているだろうか。
【中村和希】