最近は便利になって、ネットで地名を検索すると、検索エンジンが地図を示してくれる。校閲作業でも急ぎの地名確認はとりあえずネットでとなるが、これには落とし穴がある。
仙台市若林区の地名「椌木通(ごうらきどおり)」。仕事に役立てようと難読地名を調べていて知ったのだが、読みだけでなく「椌」という漢字も全国的に珍しいようだ。昨年仙台市を訪れる機会があり、現地に立ち寄ってみた。
「若林区歴史的地名活用事業」と書かれた地名表示の紙があちこちに張られ、「かつてガホラ(空洞)のある大木があったといわれる通り 椌木通」と教えてくれる。更に、由来と地名を記した石碑もあり、この地の人たちがいかにこの名称を大切にしているかが分かる。
帰ってきて詳しく調べると、「椌」の字を使った地名は、新潟県十日町市にある「椌木(うとぎ)」(住所表記ではなく行政区名)など少数ながら他にもあった。調べ進めて驚いたのが、ネット検索では「十日町市控木」と、木偏ではなく手偏の「控」(ひかえ)で地図がヒットすることだ。地図にも控木と書かれている。十日町市役所に問い合わせてみると、やはり木偏が正しいとのこと。(以下、地図はGoogleマップより)
「椌」以外の、認知度の低そうな漢字を使った地名も検索してみた。たとえば「高知市高埇(たかそね。埇は「踊」の足偏を土偏にした字)」。「埇」がパソコンの機種など環境によって表示されない恐れがあるため、「高そね」としたサイトが多くヒットする。こうしたパターンは交ぜ書きになって不自然なため、ネット地図で地名を確認したとしても、漢字で表示できないため平仮名なのかと気付けそうだ。冷や汗が出たのは、環境依存文字を別の漢字で代用している場合があること。例としては「岩手県一関市北霻(ほう、雨冠に豊)霳(りょう、雨冠に隆の旧字)」が「北豊隆」になるなどがある。これはネットで調べて確認できた気になっていてはまずい。一関市役所に確認してみたがやはり「霻霳」が正解だという。行政区画便覧など紙の資料で確かめる必要性を痛感する。
パソコンの時代になり、きちんと覚えていない漢字も使えるようになったが、同時に表示したいように表示できない不便も発生した。合併で新たな地名ができる際にはより簡単な表記が選ばれる傾向にある昨今だが、こういった希少漢字地名も不便だからと消えてしまわないか心配になる。椌木通の方々のように、全国の個性的な名を持つ地域の方々にもその名前を愛してほしいと願う。それでこそ、歴史ある、多様性豊かな社会が守られるであろうから。
【水上由布】