先日電車内で、ぼんやりと路線図を見ていました。すると、「ん、間違いか?」という駅名が。西武鉄道多摩川線多磨駅。多磨駅の「磨」は「摩」では? 家に帰って調べてみると、確かに間違いなく「磨」。多磨駅のあるあたりは、多摩地区とも呼ばれるのに、なんて紛らわしい。
毎日新聞用語集の「紛らわしい地名」には、東京都府中市多磨町に「多磨霊園」があると書いてあり、もしかしてこの多磨?と思ったらまさにそうでした。多磨駅の旧称は「多磨墓地前駅」で、2001年に改称されました。多磨墓地とは現在の多磨霊園です。多磨霊園は、北多摩郡多磨村に造られたことから「磨」が使われています。多磨村は1954年に合併し府中市になり、今では府中市多磨町として残っています。この府中市多磨町も以前、紙面に府中市多摩町と載ってしまったことがあるので、校閲としては要注意です。
多磨駅の由来は分かりましたが、ではなぜ多磨、多摩の2通りの表記なのでしょうか。
北多摩郡多磨村は、すぐ近くに南多摩郡多摩村という村(現在の多摩市)があるので、同じ村名になるのを避けたと言われています。多摩の語源は諸説あるようですが、多摩川の上流、山梨県の丹波山(たばやま)地方の「たば」という読みが、東京に入ると「たま」になったというのが一般的です。音で伝わったので、表記としてはさまざまなものがあり、「万葉集」や「延喜式」などの古い書物には多摩や多磨、多麻といったものも見られます。いつのころからか、多摩の文字が多く使われるようになったようです。
この「たま」の謎、古くから伝わっている地名だからこそ生じるもので、「たま」=「多摩」しかないと思い込んでいた私は校閲としてはまだまだ半人前。改めてそう感じ、初心に帰ることができました。
【薄奈緒美】