人を入れるイベントに使う「対面」について伺いました。
目次
「問題ない」は2割に届かず
巨大イベントを3年ぶりに「対面で」開催――カギの中、どう感じますか? |
問題ない 18.3% |
違和感はあるが、一言で表現するのが難しいので仕方ない 44.9% |
おかしい。「会場に人を入れて」などとしたい 36.8% |
「リモート」や「オンライン」に対置して使われる「対面」。人と人とが向き合うような場面をイメージしにくい巨大イベントでも「対面で」開催と言うことについては、「違和感はあるが仕方ない」とした人が最多で4割余りを占めました。「問題ない」とした人は2割に届かず、他に言葉がないため仕方なく使われている表現のようです。
対面は「向き合うこと」
国語辞典の「対面」についての説明は「①顔を向き合わせて会うこと。②互いに向き合うこと」(岩波国語辞典8版)ぐらいが大半です。観客などを会場に入れてイベントを開く際に「対面で開催」などと言うようになったのは、コロナ禍にあって生まれた新しい用法でしょう。
もっとも、インターネットないしオンラインと「対面」を対置する用法はコロナ禍以前にも存在するものではありました。例えば市販薬の販売を巡っては「対面販売」に対してネット販売を認めるか、というのが長年の焦点でした。
ただし「対面販売」ではちゃんと「互いに向き合う」場面が想定される一方で、イベントの場合には必ずしも「向き合う」わけではありません。入場者はもしかすると会場の中をただ回遊するだけかもしれませんし、あるいはステージの上を一方的に見つめるだけかもしれません。「対面」という言葉がなじまない場合は幾らも考えられそうです。
「有観客」と似た事情
とはいえ「対面」以外にどんな言い方をすればよいのか、となると、一言でスパッと言い切るのはなかなか難しそうです。質問の選択肢では「会場に人を入れて」という例を示しましたが、「対面」に比べて文字数が多いと言われればその通りです。
コロナ禍以前は普通だったことについて、改めて言葉を選ぶのが難しいというのは、以前「有観客」という言葉について伺った際にも感じたことでした。
かつては異常なことだった「無観客」が大勢を占めるようになった状況で、逆に観客を入れる場合を説明する言葉が必要になり、使われ出したのが「有観客」でした。イベントなどの「対面」開催も、似たようなものと考えられます。
緊急対応の用法として扱う
アンケートの結果では「おかしい」との回答が「問題ない」の2倍程度になりました。人と人が空間を共有する場合を何でも「対面」で済ませるというのは、言葉の使い方として好ましいものではありません。定着する可能性がないとは言えませんが、あくまで緊急対応の用法とみるべきでしょう。
イベントなどの場合は、コロナ禍前と同様の開催形式であれば「通常開催」と言ってしまってもよいと思います。しかし、人は入れるけれども以前と同じとは言えない――そうした場合にはやはり、「一般客を迎えて開催する」のように説明するしかないのではないかと考えます。
(2022年12月08日)
「対面」は「顔を向き合わせて会うこと」(岩波国語辞典8版)というのが主な意味ですが、コロナ禍にあって新しい使い方が広がってきました。オンラインやリモートに対して、実際に空間を共有して顔を合わせることについて「対面」と言う場面が増えているのです。▲三省堂国語辞典は昨年刊行された8版で「対面」の項目に「対面講義」という用例を挙げています。この用例は「リアル④」を参照せよという注釈付き。それに従うと「〔仮想ではなく〕現実〈に/で〉あるようす。また、現実」とあり、「リアルの〔=オンラインでない、対面での〕講義」という用例が挙げられています。「対面講義」「リアル講義」はほぼ同義で、「オンライン講義」と対をなすという説明です。▲たしかに「対面講義」であれば学生と教師が向き合っている場面が目に浮かび、分かる気はします。しかしこれが、巨大イベントならどうでしょうか。今秋の大規模な展示会を取り上げた記事で「一般来場者向けに対面で開催するのは3年ぶり」というくだりがありました。この場合、「対面」といっても見学客は自由に動き回るわけで、じっと誰かと向き合っているという場面は今一つ想像しにくいと思います。単に「空間を共有する」に近い意味で「対面」と言って差し支えないか、皆さんに伺ってみたいと思います。
(2022年11月21日)