合意などを記した書面、「覚書」につながる動詞は何が良いか伺いました。
目次
大多数は「交わした」を選択
協力に関する事項をまとめ、相手方と「覚書を○○」――マルの部分に何を入れますか? |
交わした 85.8% |
結んだ 6.5% |
上のどちらでもよい 7.7% |
相手方との合意などをまとめた文書の「覚書」。これを受ける動詞は何が良いかという問いでしたが、「交わす」を選んだ人が8割超と大多数を占めました。新聞記事の原稿では意外に「覚書を結ぶ」という言い回しも出てくるのですが、これは「交わす」と直した方が、一般的に受け入れられやすそうです。
辞書も「交わす」を記載
今回の質問で取り上げたような「覚書」は、国語辞典では「当事者間の合意事項などを記した文書」(新選国語辞典10版)などと説明されます。合意事項をお互いに確認できるように文書をやり取りするわけで、新選の用例にも「覚書を交わす」とあり、やはり「交わす」がふさわしいように思います。同じ用例を挙げる辞書は複数ありましたが、「覚書を結ぶ」と記したものはありませんでした。
「結ぶ」は「しっかりまとまった形のあるものにする意」(広辞苑7版)の言葉。特に「契りを交わす。固く約束する。(中略)『同盟を結ぶ』」(同)のように使います。具体的な書面について使うよりは、その書面に書かれた内容について使うのがしっくり来るものです。「覚書」は基本的には文書を指すので、「結ぶ」はなじまないと言えそうです。
国会では「覚書を結ぶ」も多用
ところで新聞記事では「両国が協力する覚書を結んだ」「連携強化の覚書を結んでいる」「英国のベンチャー企業と覚書を結んだ」のようなくだりを見ることが珍しくありません。毎日新聞の過去記事(東京本社版、地域面除く)を検索してみると、約35年分の記事中、「覚書を結~」の形だと91件がヒットします。「覚書を交わ~」の形では345件が見つかるので「交わす」が優勢なのは間違いありませんが、アンケートの結果で「結んだ」が6%程度だったのに比べると、「結ぶ」が多く使われています。
また国会会議録検索システムで、同様に「覚書を結~」「覚書を交わ~」をそれぞれ検索してみると、「結ぶ」が289回、「交わす」が351回で、それほど差がないという結果になりました。どうして「結ぶ」もよく使われるのか。「覚書」には「条約に付帯する簡単な外交文書」(日本国語大辞典2版)という意味もあり、その場合には「締結する」の意で「結ぶ」と言うこともあるようですが、通常の約束を記した文書でも「覚書を結ぶ」という言い回しが使われがちなようです。
こうした言い方を使うか否かは結局、慣れによるところが大きそうです。もしかすると、語感として「覚書を結ぶ」の方が「交わす」よりも改まって感じられるのでしょうか。新聞記者も、国会のような場面でよく使われる言い回しに何となく慣れているために、つい「結ぶ」を使いがちになるというくらいが実態なのかもしれません。
普通は「交わす」で問題なし
さてしかし、アンケートの結果から見ても、辞書類の記述から見ても、一般的な合意や約束を記した書面を取り交わす場面については「覚書を交わす」と書くのがよさそうです。記者の書いてくる原稿についても、「結ぶ」とあった場合には基本的に「交わす」に変えてもよかろうと考えます。
(2022年03月01日)
「覚書」に合う動詞は「交わす」か「結ぶ」かという質問です。「覚書」には幾つかの意味がありますが、この場合はおおまかに「意向伝達(双方の合意確認)のために交換する、略式の文書」(新明解国語辞典8版)という意味に取ってもらえればと思います。「備忘のための記録」(同)ではありません。▲出題者は「覚書を結んだ」と書かれた原稿を見ると、ちょっと落ち着かない印象を持ちます。「条約」や「契約」なら「結んだ」でも自然だと感じるのですが……。これはおそらく、条約などが物体ではなく「約束」を意味するのに対し、「覚書」は新明解の説明が示すように「文書」という物体を指すためだろうと考えます。文書の場合は交換する(交わす)ことはできても、結ぶという言葉では何をするのかイメージしにくいのです。▲とはいえ、「覚書を結ぶ」と書く人からは、書面ではなく内容を問題にしているのだと言われるかもしれません。その言い分が通るのかどうかは、皆さんに伺ったうえで考えてみたいと思います。いかがでしょうか。
(2022年02月10日)