若手校閲記者の率直な言葉が飛び交う座談会。後編では、びっくりした間違いや最近気になっている言葉、「チルい」「エモい」といった新語についてなど、さまざまなテーマに話が広がりました。
目次
「カワイレダイコン」
――自分では気付かなかった直しとか、こんなふうに間違える?ってびっくりした間違いはありますか?
栗原 カタカナが入れ違っちゃってて、パッと見ではわからないっていうのはありますね。
高田 「新型コロナウイスル」とかね。
一同 あー、あったねえ(笑い)。
栗原 あと「カワイレダイコン」も。
一同 カワイレはびっくりしたよね……。
高田 あとなんか行がわりで間違うっていうのは本当なんだって。
土田 「バックスクリーン」が「バックスリーン」になってて、スとリのところで行がかわってて見落としちゃったりとか……。
栗原 カタカナ怖い……。
高田 確かに……普段は1文字ずつ丸つけて読んでる。
土田 1文字ずつって大事だよね。時間ないとサーッと読んじゃうけど、そういう時こそしっかりしないと。
――変換間違いとかもありますよね。昔「○○億円」の「円」が「遠」になっていたこともありました。
高田 何でー(笑い)! 変換でスペースキーを押しすぎたのかな。
栗原 スポーツの記事でも書いてたんですかね? 「遠投」の「遠」みたいな(笑い)。
――「おく」と「えん」で変換したんでしょうね。「おくえん」でまとめて変換すればまず間違えない。
栗原 そういえば損害賠償に関する記事で、見出しを「損賠」ってしてたんですけど、「賠」が「何倍」の「倍」になっちゃってたことがあって。多分「そん」と「ばい」で打ってるんですよね。「損害賠償」って先に打って「害」と「償」を抜いたら大丈夫なはずなんですけど。
土田 私も1個あって、最近「抗菌」とか「抗ウイルス」とかって聞くじゃないですか。その「抗」が手へんじゃなくてなぜか土へんの「坑」になってて……。
高田 炭坑の「坑」ね。
土田 結構土へんと手へんって似てて、初校の時は見落としちゃったんですけど、降版の15分前ぐらいにゲラ見てて気付いて「えっ!」みたいな。直ってよかったんですけど、似てるからといって訂正にならないとかそんなわけはなくて。誤字って小さいことじゃなくてそういう一つからでも訂正が出ちゃうので、すごく怖いなというか、最終的に気付けてよかったなって思いました。
一回スルーしそうになっても…
――よくこの間違い見つけたなとか、頑張って調べたなということはありますか?
栗原 引用間違いですかね。防衛白書の記事で「正当な権益」の「当」が「統合」の「統」になっちゃってて。明らかにおかしいんだけど、もしかしたら防衛白書にそう書いてあるかもしれないので、全文から頑張って探したら防衛白書は「当」の方の「正当」でした。全文の中でも最後の方にあったので、頑張ったなあって自分の中で思いました。
土田 私は固有名詞とかで、間違っているけど一見問題なさそうに見えちゃうものにあまり強くないので気を付けるようにしていて。そしたらこの前法律の名前で「教育職員免許法」が「教員職員免許法」になってて……固有名詞だから一発アウトで怖っ!と思いました。最初は本当にスッと読みそうになったんですけど、(検索)画面と照らし合わせて、「教、育」だ、えっやばいやばいって。問い合わせて直りました。苦手を克服できたじゃないですけど、ちょっとうれしかったですね。
高田 私はアメフトの記事で、AチームとBチームの記録が逆になってたのを見つけた時に先輩に褒められました。校閲ってやっぱり数字の資料とか一生懸命探すんだけど、探して記事と同じ数字が出てきたらそこで安心しちゃうところがある。だからそこで止まらずにほんとに正しいかまで確認できたのはよかったかなと思います。
土田 出てきたら安心しちゃってそこで一息つきたくなるけど、そこからがスタートっていうね。
高田 わかるわかる。さっきの土田さんの一回スルーしそうになったけどやっぱりちょっと引っかかって立ち止まったっていう話は、すごくわかるなっていうか、大事だなって思って。なんかよくわからないけど不思議と勘が働いて引っかかる時ってあるよね? そういう時ってある程度自分を信じていいのかなというか、そういう感覚は信じてもいいのかなと思う。ちょっと引っかかりを覚えた時は、その引っかかりを大事にしてもいいのかなって。
土田 字の形的になんか違って「ん?」みたいな時にわりとあったりしてね。
高田 「ん?」って思ったらひらがな1個抜けてたりとか。時間がない時でも「ん?」っていうのは大事にした方がいいかなって、入社してから思いましたね。
「V」は「連覇」か「勝利」か
――最近気になっている言葉はありますか? 新語でもいいし、最近新聞で見て気になった言葉でも。
栗原 見出しで学校とかが優勝した時に「V」使うじゃないですか。この前関学大が(アメフトの)甲子園ボウルで4年連続32度目の優勝をして、あれ、これは「V4」か「V 32」かどっちだろうと。「Victory」(ビクトリー=勝利)の「V」だから、これまで勝ってきた回数の数字をつけると考えると32かな、と迷ったんです。そしたら毎日ことばのサイトでアンケートをとっていたものがあって。それを見たら4分の3くらいの人が「連覇」という意味でVを使っていた。紙面は「V4」と連覇の意味で載りました。皆さんはどう使ってるんだろうって気になってますね。連覇っていう意味でしか使わないのか。
高田 私は少し前に整理さん(紙面のレイアウトなどを担当する記者)が気付いて手直しをしてくれた例があるんだけど。「コロナの感染者が国内で1万人を超えた」という内容の原稿に、「コロナ感染者が初めて1万人を超えた」って書いてあって。私はスッと読んじゃったんだけど、何かの事象で積み上がっていた人数が一定数を超えた時は別に「初めて」も何もなくない?ということで、直しますと整理さんに言われて。あー確かにそう言われてみれば単に「コロナ感染者が1万人を超えた」でいいなと思ったけど。
栗原 累計ですもんね。
高田 そうそう。2万人になった時に「2回目に1万人を超えた」とは言わないじゃない。言われてみれば変だなあと思ってメモしてました。
わかりやすく伝える責任
土田 私は、例えば「SDGs」ってよく聞くじゃないですか。「これ知ってる?」ってみんなに聞いても、それが英語のどういう略なのか、日本語だとどういう意味と内容なのかわかってる人が少なくて……私も最近覚えたんだけど。SDGsって言葉だけが独り歩きしてて、具体的な内容をわかってないと本末転倒なんじゃないかなと思う。略したら短くなるし略称を使うこともあると思うんですけど、なんでもかんでも英語にして略して、わからなくなって、行動できない、という状態になっていることがなんだか最近多いのかなと思います。ある程度の知識は必要かもしれないけど、わかりやすさ、親切さもやはり大事だと思う。若い世代だと英語とかも浸透してるかもしれないけど、英語にあまりなじみがない読者にもわかりやすく伝えるためには、言葉ひとつとってもやっぱりどう伝えるかで違うなと思います。なんでもかんでも英語を使ってる最近の言葉はどうなんだろうとちょっと思ったり。
高田 私の母親も「(カタカナ語などは)あんまりわかんないから言い換えた方がいいわね」って言う。
土田 めっちゃ言われる! きのうも言われた。
高田 「私はわかるけど」っていうのじゃ確かにダメだなと思いますね。特に紙(の新聞)は読んでくれてる世代が上だったりするし。
栗原 そうですね。「SDGs」だけだとなんで最後のsは小文字なんだ?とか。
土田 きのう母が同じことを言ってたな。なんでsちっちゃいの?って。伝える責任がメディアにはあると思うので。
栗原 漢字で書いた方がわかりやすい時もありますよね。
土田 難しいですよね、一概には言えないと思う。
――わからない人の目線に立つほうが難しいことはありますよね。「これはわからないんだ」っていうことがわかってないから。
土田 すごく大事なことですよね、読者目線に立つって。普段忘れちゃいます。自分の仕事に精いっぱいで、読者がその先にいるのを。
高田 わかるわかる。必死でやってるとね。
「チルい」よりも「チル!」?
――新語で気になってるものはありますか? 先月「三省堂国語辞典」の改訂版が出て、「エモい」(心がゆさぶられること)が収録されましたね。
高田 「エモい」は高校生の時に知ったなあ。「エモーショナル」なんだよね。私は最初「エロくてキモい」だと思ってて。
一同 (笑い)
高田 官能的なさまを表してるのかなと思ってたんだけど、エモーショナルかあと。
――「三省堂 辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2021』」の大賞が「チルい」(落ち着いて気分が良いこと)でしたが、これは使いますか?
高田 使わないけど意味はわかる。
土田 私は存在を知らなかったです。
栗原 「チル」だけで使うことはありますけど、「チルい」はあんまり。「チル!」だけでSNSに画像あげたり。
一同 「チル!」!?
高田 すごい。自分がやろうとしたら若作りしてるみたいでためらうかもしれない。1歳しか違わないのに。
一同 (笑い)
高田 あとは「エグい」って友達が使ってて。多義化してますよね。
一同 ああー。
――「これエグいわ」というように「すごい」の意味で使うことが増えてるみたいですね。
高田 使わないなあ。
栗原 「やばい」みたいな使われ方になってますよね。危ない時に「エグい」、すごい時にも「エグい」。
土田 私はその「チルい」とかも、全然存在すら知らなくて、ちょっとちゃんと感性をアップデートしないと……。
高田 いや、無理しなくていいと思う(笑い)!
【まとめ・加藤史織】
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