「肝煎り」の意味について伺いました。
目次
本来の「骨を折ってまとめる」が最多
「首相肝煎りの政策」などというときの「肝煎り」、どういう意味でしょうか? |
熱心に主張する 40.1% |
骨を折ってまとめる 44.7% |
文脈による 6.7% |
わからない 8.4% |
「骨を折ってまとめる」という意味だと捉えた人が最も多く半数近く。しかし「熱心に主張する」を選んだ人も4割以上で同じくらいの割合を占めました。新聞記事では後者の意味でよく使われますが、思ったよりも本来の意味で捉える人が多いという結果でした。
「肝を煎るように」心を砕く
「肝煎り」は、「肝を煎る」という表現から出た言葉です。「暮らしのことば 新語源辞典」(講談社)によると、「本来は、肝を煎るように心をいらだたせ、やきもきするの意。そこから、熱心に心を砕いて世話をするの意となり、さらに、あれこれ間に入ってとりもったりすることの意になった」。こういう成り立ちであるからこそ、辞書では「仲にはいって世話をしたり、間をまとめるため骨を折ったりすること」(岩波国語辞典8版)といった説明になるわけです。
しかし新聞では、菅義偉首相の携帯電話料金値下げ、デジタル庁設置のみならず、過去には郵政民営化、五輪開催、医療保険改革、「1億総活躍」、マスクの全戸配布など国内外でいろいろな政策が首脳の「肝煎り」と表現されてきました。ほとんどの場合、明鏡国語辞典3版で「新しい意味」とされる、「意見や考えを、中心になってとなえること。主唱。発案」に当たります。
この用法、先ほどの語源解説を踏まえればやはり本筋ではないでしょう。通信社のハンドブックには「仲介・世話(人)のこと。発案・提唱(者)の意味では使わない」と注意喚起しているものもあります。
「肝入り」と考える?
とはいえ全くの誤用とも言い切れません。「肝を煎る」に「心づかいをする、熱心になる」(日本国語大辞典2版)との意味があることを考えれば、(実際に仲介などで骨を折るかはともかく)熱心に唱えている目標について「肝煎り」と表現するのは大外れではないようにも思えます。
ちなみに前述の「新語源辞典」では、「肝入り」という表記で項目が立っていました。「本来は『肝煎り』と書くべきところであるが、『入魂』などからの連想もあって、心を込めて事に当たるという意味をもつようになった」と「肝入り」表記を説明しています(新聞では本来の表記である「肝煎り」もしくは「肝いり」を使います)。このように「肝いりの政策」を「首相が肝を入れている政策」と解釈する人もいるかもしれません。こうすると「熱心に主張する」という意味にかなり近づきます。こうして「肝煎り」の新しい意味がある程度浸透したのでは、とも想像されます。
受け取られ方がはっきりしない
さて回答の割れたアンケート結果を再度見ると、読者により解釈が分かれてしまうことも予想されます。たとえば「○○氏の入閣は首相肝煎りの人事だ」などとあれば、首相自ら与党内で根回しなどをした結果の入閣――と捉えるのが素直ですが、「首相が熱心に主張して強引に入閣させたのか」などと受け取る人もいるでしょう。そういった解釈の違いを避けるために、あえて「肝煎り」を使わず、「首相の仲介で入閣した」「首相が強く主張して入閣させた」などと、意味がより明確になるように書き換えるのも選択肢の一つです。
(2021年07月02日)
携帯電話料金の値下げや行政のデジタル化などについて、しばしば「菅義偉首相肝煎りの政策」と報道されます。首相自ら推進を主張してきた政策ですから、この場合は首相が熱心に主導していることを「肝煎り」と表現しているわけです。しかしこの用法、ほとんどの辞書には記述がありません。
例えば岩波国語辞典8版で「肝煎り」を引くと「仲にはいって世話をしたり、間をまとめるため骨を折ったりすること」とあります。他の多くの辞書も同様の説明で、これらに即してアンケートの例文を解釈すれば、首相が自ら動いてあちこち根回しをするなどして作り上げた政策、ということになりそうです。が、こういった意味で「肝煎り」を使っている例を出題者はほとんど見たことがありません。
昨年出版された明鏡国語辞典3版ではようやく、新しい意味との注釈つきで「意見や考えを、中心になってとなえること。主唱。発案」との記述が加えられました。さてアンケートでは実態として使われている意味で受け取る人が多いでしょうか、それとも多くの辞書の説明通りの意味で受け取る人が多いでしょうか。
(2021年06月14日)