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「両月」の読み方、その由来
ローカル線に乗るのが好きなので、まずは粟生駅(兵庫県小野市)と北条町駅(同県加西市)を結ぶ北条鉄道に乗ってみました。この「粟生」駅、さっそく難読ですが読めますか?
「あお」と読みます。知らなければ「くりゅう」と思い込んで「栗生」と誤記をしてしまいそう。「粟」と「栗」は校閲的には「栗田さん」と「粟田さん」など、人名でも要注意のコンビです。ちなみに世界チャンピオンになったボクサーは粟生(あおう)隆寛さん。
この北条鉄道沿線にある加西市の超難読地名。読めますか?
答えはこちら。
「わち」って、いや読めへんやろ。「日本歴史地名大系」の「兵庫県の地名」によると、「両月をワチと読ませる理由は不明であるが、月をグヮツ、グヮチと読むことはある。(中略)『わち村』は『グヮチ村』であり、月村と西月村が合併して両月村となったとも考えられる」。元々「月(わち)村」だったのが合併で「両月村」となったけど読みはそのまま「わち」――ということでしょうか。まあ「月」を「わち」と読むだけでも難しいのですが……。
両月はのどかな田園地帯でした。こちらは善坊池。
兵庫県のホームページによると、ため池の数は約2万2000と都道府県別で日本一。このあたり東播磨地方や淡路島に特に多いそうです。降水量が少なく河川の水も利用しにくいため、ため池で農業用水を確保していたのです(神戸新聞東播支社・北播総局編「播磨のため池」)。車で走り回ってみましたが、確かに道路沿いに何度もため池を見かけました。
「佐用」町と「佐用」駅は読み方が違う
その後は一気に兵庫県南西部へ。天文好きならば「西はりま天文台」の所在地といえばぴんとくるでしょうか、佐用町にやってきました。
この佐用町、「作用」と誤記されることがしばしばあります。ああ、毎日新聞もやらかしていた。
こういった「訂正」にはならない話ですが、実はこの「佐用」町と、町にある「佐用」駅では読み方が異なります。ご存じでしょうか。町名はそのまま「さよう」と読むのですが……。
駅名は「さよ」。寺本躬久著「播磨地名伝承の探索」によると、「古くは『さよ』で、これが長音で『さよう』となったのは近世になってからであろう」。町名は新しい読み方を採用し、駅名は昔の読み方をとったのでしょうか。
佐用町で有名なのは樹齢1000年といわれる大イチョウ。
残念ながらかなり落葉していましたが、地面に落ちた葉が黄色いじゅうたんのようです。これを見るだけでも、黄葉のピークがいかに美しいものだったか想像できます。
揖保川にちなむ有名そうめん
昼食には、たつの市の「損保乃糸資料館 そうめんの里」で、そうめんちゃんぷるーを頂きました。寒くなってきたので温かいそうめんがうれしい。
前の文、誤字に気づきましたか? 「損保」ではなく「揖保」ですね。「損保乃糸」だと思っている人が結構多かった、という話が今年ネット上で話題になっていましたが、「揖保乃糸」は播磨地方の「揖保川」にちなむ名前。しかし改めて活字にすると本当によく似ています。
見た目もすごい「宍粟市一宮町百千家満」
その揖保川の上流に向かい宍粟市に入ります。さらに北上すると、一宮町にこんなインパクトのある地名が。市名も合わせて、読めますか?
「宍粟市」は「しそうし」、「百千家満」は「おちやま」と読みます。落合重信著「ひょうごの地名再考」では、「百千家満」は元々「落山」であり、「山が崩れ落ちたことを意味していた地名で、揖保川上流に多い崩壊地名の一つ。(中略)ただ『落山』、どうみてもいい地名ではない。そこで(中略)読みは残して『百千家満』の文字を当てたのである」という建部恵潤氏の説を紹介しています。強引な当て字ですが、確かに「百も千も家が満ちる」なら縁起がよさそうです。
先ほど「粟生」と「栗生」について書きましたが、「宍粟」は「穴栗(あなぐり)」などと間違えられることがあります。「日本歴史地名大系」によると昔から「宍栗郡」「完粟郡」との表記が見られるそうで、書き間違いはもはや伝統。市は10年ほど前からその難読ぶりを逆手に取った「知名度アップキャンペーン」を展開しました。その成果で難読として有名になり、読めるようになった人も多いかもしれません。
但馬の難読地の絶景2選
たつの市や宍粟市は旧国名でいうと「播磨」。宍粟市から山を越えて朝来市に入ると「但馬」です。この朝来市も読みが難しいですね。「あさご」が正解。ネット上では「朝木市」という誤字が見られますが、「あさき」だと思って入力したのでしょうか。ちなみに和歌山県には「朝来」駅がありますが、こちらの読みは「あっそ」。読めん。
朝来市の名所といえば「日本のマチュピチュ」こと竹田城跡。
残念ながら有名な雲海は見られませんでしたが、紅葉の進んだ山々の美しい眺めを堪能できました。
今回は竹田駅裏からの登山ルートを使ったのですが、1キロに満たない道のりなのに息が上がりました。城跡のスタッフいわく「このルートは昔も使われていた道で、石段も高くて勾配もきつくて、歩くのも大変」。確かにこんな急坂の上の城、どうやって攻めればいいのか分かりません。
朝来市から西に向かうと養父市。こちらも知っていないと読めません。「やぶ」です。宍粟市と同じく「読めない市」をアピールしていましたが、紅葉で有名な養父神社や兵庫県の最高峰・氷ノ山などの名所があります。今回訪れたのは「別宮(べっく)の棚田」。
収穫はとうに終わり、きれいに整地されています。一番人気は田植えのシーズンらしいのですが、晩秋にはススキと紅葉が氷ノ山をバックに映えていました。あの山を越えると関西を出て、鳥取です。
土地勘を身に付けるとか地名を知るとかいう目的よりも、とにかく兵庫の広さと多様性を感じるばかりの旅行となりました。
【林弦】