冒頭の文章、京都人の皆さんはツッコミどころが多すぎて困ってますか? 非京都人の皆さんは何がおかしいのか全く分からずポカンとしてませんか?
校閲記者も一介のサラリーマン。転勤辞令を受けてこの春、20年暮らした首都圏から関西に移住しました。大阪制作の新聞にはもちろん地元のニュースが多く、関西ビギナーは四苦八苦。
そうや、土地勘を養うためにも、実際にいろんな所に行ってみたらええんちゃうかな! そんなわけで、関西の要注意地名を巡るという名目であちこちへ。関西在住の皆様にとっては当たり前のことかもしれませんが、どうぞお付き合いください。まずは京都から。
目次
正式名称は超難読
そこらじゅうに世界遺産のある歴史と文化の町・京都。早速ですが、読めますか?
「賀茂別雷神社」と「賀茂御祖神社」です。 筆者は全く読めませんでした。それぞれ「かもわけいかずちじんじゃ」「かもみおやじんじゃ」が正解。前者は通称「上賀茂神社」、後者は通称「下鴨神社」です。正式名称ではいずれも「賀茂」なのに、通称となると「上賀茂」「下鴨」。なんともややこしい。
上賀茂神社には京都駅からバスで1時間近く。山も近く、境内には澄んだ水の小川が流れています。忙しい日常を忘れてリフレッシュできる、開放感のある空間です。
対して下鴨神社は街に近く、周りは住宅地なのですが、一度境内に入れば俗世から切り離されたよう。広大な「糺の森」が厳粛な空気を生み出しています。これも難読ですね。「ただすのもり」と読みます。
賀茂かも、鴨かも
では、この二つの神社の近くを流れるのは「賀茂川」か「鴨川」か。万城目学さんの小説は「鴨川ホルモー」。「平家物語」では、白河上皇が「賀茂川の水とすごろくのサイコロ、山法師は思うようにならん」と嘆いたというくだりが有名です。どっちもありなのでしょうか。
毎日新聞用語集の「紛らわしい地名」というコーナーには、こんな記述がありました。
なるほど、それでその高野川との合流地点ってどこ?
ここです。上の写真の左側が賀茂川、右側が高野川。「鴨川デルタ」というそうです。下鴨神社はこの写真の奥にあります。
合流地点よりかなり上流の「賀茂川」沿いにあるのが「上賀茂神社」、そして合流して「鴨川」になる地点に近いのが「下鴨神社」なのですね。これで賀茂と鴨の使い分けはばっちりだ。
しかし川に沿って歩くと……おや?
「鴨川(賀茂川)」という表示板に、橋に刻まれた「賀茂川」。
どうやら「合流地点で賀茂川が鴨川になる」というのも、そう捉える人が多いというだけで絶対的な話ではないようです。国土地理院が公表している地図も、合流前の川を「鴨川」と表記しています。
地元紙・京都新聞に大変興味深い記事がありました。さらに詳しく知りたい方はご覧ください。
「る」も「-」もいらない
鴨川沿いにさらに南に行けば京都の中心市街地。河原町を経て烏丸駅(×鳥丸駅)方面に向かいます。そういえばこの旅の同行者は、さすがに「とりまる」などとは言わなかったものの、「この『からすまる』ってところで乗り換えるの?」と、こちらも関西ビギナー丸出しの誤読をしてくれました。考えてみればこの「烏丸(からすま)」の読みも普通ではありません。
こちらは偉そうに「ちゃうちゃう、『からすま』な」と即座に訂正してやったのですが、日本国語大辞典で「からすま」を引いてみると、「からすまる(烏丸)の京都での言いならわし」。現在の「烏丸通」のことを、元々は「からすまる」と呼んでいたようです。「からすまる」も大間違いではないのかも。
その烏丸の近く、行ってみたいところがありました。レトロな造りの喫茶店「イノダコーヒ」の本店。
そうです、「イノダコーヒー」ではありません。
コーヒーの苦みは心地よいのですが、この店名には個人的に苦い思い出もあります。10年近く前、出来上がったばかりの新聞を読みながら気づいてしまったとき。
イノダコーヒになじみがないと思われる東京校閲のみなさん、ご注意を!
では冒頭の文章に戻りましょう。
京都市郊外の上鴨神社を訪れた後、鴨川に沿って南下し下賀茂神社まで。街歩きを楽しみ、イノダコーヒー本店で一休みしてから鳥丸へ……。
もう、完璧に直せますよね。
京都市郊外の上賀茂神社を訪れた後、賀茂川(鴨川でも可)に沿って南下し下鴨神社まで。街歩きを楽しみ、イノダコーヒ本店で一休みしてから烏丸へ……。