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大阪空港はどこにある
「関西3空港」と呼ばれる主要な三つの空港があります。関西国際空港、大阪国際空港、神戸空港のこと。関空は大阪府の南部にあり、兵庫県からはちょっと遠いですね(こういう感覚も東京にいるとなかなか分からない)。大阪国際空港は新聞では「大阪(伊丹)空港」と書かれることが多いのですが、恥ずかしながら筆者は関空と大阪空港がごっちゃになることもしばしばでした。さてこの大阪空港は大阪府、兵庫県のどちらにあるでしょうか。
「大阪空港」なんやから大阪にきまっとる? いや「伊丹」って兵庫県やろ。尼崎と一緒で時々大阪に間違われるけど。これ、「東京○○」が実は千葉県にあるのと同じパターンちゃうか?
空港の入り口にはこんな看板がありました。
現在は国際線は運航していませんが、「大阪国際空港」。ただし伊丹出身の後輩記者によると「大阪国際空港なんて絶対言いません! 『伊丹』です!」とのこと。毎日新聞大阪本社内でも「大阪空港じゃどこか分からん。伊丹やろ」との声が多く聞かれました。
さて案内図で兵庫県伊丹市、大阪府豊中市、大阪府池田市に囲まれていることは分かりますが、空港の所在地は分かりません。
困ったときの国土地理院の地図がこちら。
ご覧の通り、空港敷地内を府県境が走り、大阪と兵庫にまたがっています。東側が豊中市、西側が伊丹市。北側にはちらっと池田市も食い込んでいますね。
以前「伊丹空港(大阪府)」と書かれた原稿を読んで「ん?」と思ったのですが、空港ターミナルビルの事務所が豊中市にあるため、代表的な所在地を書くのであれば「大阪府」がよいでしょう。
ターミナルビル内で、背中に「大阪府警」の文字を背負った警察官とすれ違いました。ところが次にすれ違った警察官の制服には「兵庫県警」。このような立地を踏まえて両方の警察が協力して対応しているのです。そのため、「大阪府の大阪空港で事件が発生……兵庫県警が捜査」という珍しいケースも。そんな原稿を校閲が読んで「おかしい!」と文句をつけたら、「こいつ関西のこと全くわかっとらへんな」とあきれられてしまうかも。
飛行機の発着を間近で見たいなら、ターミナルビルよりも「伊丹スカイパーク」がおすすめです。特に2本ある滑走路のうち、スカイパーク側の滑走路から離陸する飛行機の迫力はかなりのもの。ただし爆音にはお気をつけて。
今日は偶然にも、鬼滅の刃デザインの機体を見ることができました。にわかなので辛うじて炭治郎が判別できる程度ですが……。
三宮・阪急のトラップ
神戸市の中心部「三宮」。いろんな路線の駅がありますが、それぞれの正しい表記をご存じでしょうか。
JRは「三ノ宮」、阪神と阪急は「神戸三宮」、神戸市営地下鉄とポートライナーは「三宮」が正確な表記。地名は「神戸市中央区三宮」なのに、JRだけ「ノ」が入るのですね。自治体名は「岩手県一関市」なのに東北新幹線の駅は「一ノ関駅」みたいなものでしょうか。「兵庫県の難読地名が分かる本」(神戸新聞総合出版センター)によると、「開業当初、読み違えのないように『ノ』を入れたものらしい」。
なるほど。しかし個人的には、この本の続きを読んだときの方が大きな驚きでした。いわく「これは芦屋駅の一つ東にある『西ノ宮』も同じである」。あれ、三ノ宮と同じ東海道線の駅は「西宮」のはずだけど……。実は同書が出版された翌年の2007年3月、自治体名の「西宮市」の表記に合わせるため、「西ノ宮」だった駅が「西宮」と改称されたのです。当時の毎日新聞記事がこちら。
以下、JR三ノ宮駅を出て、予約したレストランを探す関西ビギナー2人の実際のやりとり。
A「店はここからどっち?」
B「えーっと、グーグルマップによると阪急側」
A「阪急側ね、あったあった、阪急の神戸三宮駅。あっちやな」(歩き出す)
B「……あれ、マップ見ると反対側に進んでるけど?」
神戸在住の方はお気づきでしょう。Bさんの言う「阪急側」とは、「阪急の駅の方」という意味ではなく「阪急百貨店の方」という意味なのでした。三宮の百貨店「神戸阪急」は阪急の駅に隣接しておらず、阪神の神戸三宮駅のお隣。三宮で「阪急で待ち合わせ」をする場合は、駅なのか百貨店なのかはっきり決めておくことをお勧めします。
2006年の経営統合で「阪急阪神ホールディングス」が誕生しましたが、校閲的には「阪神阪急ホールディングス」と書かれた原稿は阪神タイガース好きが見逃しやすいという話を耳にします。気いつけよ。
「京コンピュータ前駅」は今
まだ東京に勤務していた2021年6月18日夜。大阪の校閲センターから電話がかかってきました。東京の校閲がOKを出した記事についての問い合わせです。
「明日の紙面に載る、駅名に使われているカタカナを探すパズルの記事で問題がありまして。『京コンピュータ前駅』が出てきますよね? この駅、ちょうど明日19日に名前が変わって、『計算科学センター』になるんです……」
さすがと感服するしかありませんでした。生活圏にあるからこそ、すぐに「あれ、駅名変わるんとちがったっけ」と反応できるのでしょう。大阪校閲の指摘を踏まえて、次のような注釈が入りました。
理化学研究所のスーパーコンピューター「京」は2011年に計算速度世界一を記録。この年、三宮駅と神戸空港を結ぶポートライナーの「ポートアイランド南駅」が「京コンピュータ前駅」に改称されました。
その後さらに高速のスパコン「富岳」が計算速度世界一となったのはご記憶の方も多いでしょう。「京」の運用が終了する一方で、新しい駅名はこのように。
副駅名に「富岳」が盛り込まれました。今後さらに新たなスパコンが開発され、世界一を達成したらまた変更されるのでしょうか。
かつて「京」が設置され、現在は「富岳」を運用する理化学研究所の計算科学研究センター(駅名と違って「研究」が入ることに気をつけたい)は駅から歩いてすぐ。
庭にはデジタル計算機の元祖とも言えるそろばんの玉のオブジェが飾られていました。黒い玉の数は17個。1、10、100、1000……10000000000000000(=1京)という17個の数字を表し、スパコン「京」の象徴です。「富岳」の計算速度は「京」の100倍とのことなので、そろばんの玉を2個増やせば「富岳」を象徴する新オブジェに……ならんか。
それでは冒頭の文章に戻りましょう。
もう、完璧に直せますよね。
次回は都市部を離れて、広大な兵庫県の西部を巡ります。
【林弦】