「矢先」は本来「物事が始まろうとするちょうどその時」のことですが、「直後」などの意味で使われることが多く、辞書によっても説明に差があります。意味があいまいになりかねないこともあり、新聞では「矢先」を本来の意味以外には使わないようにしています。
「矢先」の語釈の一つとして「直後」の意味を明示しているのは広辞苑7版、三省堂国語辞典7版など。大辞林4版は「物事の始まるちょうどその時。『その-に悲劇が起こった』」と本来の意味と用例を示したうえで、
〔現在形に続く「家を出る矢先の出来事」は家を出る前の時点、過去形に続く「家を出た矢先の出来事」は家を出た直後の時点をさす〕
と、直前の動詞の形によって意味が変わるとしています。
明鏡国語辞典3版は「何かを始めようとする、ちょうどその時。また、始めたばかりでまだ物事が成就していない、その時」とし、「対策を講じた矢先、事故がおこってしまった」という用例を載せています。同時に
「豪邸を新築した矢先の火災」など、物事が完全に成就したときにいうのは新しい使い方。「直後」としたい。
と注意喚起しています。
一方、新明解国語辞典8版やデジタル大辞泉、日本国語大辞典などは本来の意味しか触れていません。
「物事が始まろうとするちょうどその時」に用い、始まった後なら「…した直後」「…したばかり」、または「…している最中」「…のさなか」のように表現する
(毎日新聞用語集2020年版)
新聞での「矢先」の使い方については、このイベントでも話題になりました。
また、以前行ったアンケートでは、6割以上の人が「矢先」は「事が起こった直後」のタイミングととらえていました。