読めますか? テーマは〈仏〉です。
目次
忍辱
にんにく
(正解率 29%)さまざまな侮辱、迫害に対し耐え忍んで恨まないこと。大乗仏教で、彼岸つまり悟りの世界に渡るための六つの徳目の一つが忍辱。他に「布施」「精進」などと合わせ六波羅蜜という。お彼岸が中日を除いて6日間なのは六波羅蜜に対応させたともいわれるが、定かではない。
(2016年09月20日)
選択肢と回答割合
にんにく | 29% |
にんじき | 45% |
すいかずら | 27% |
十力
じゅうりき
(正解率 49%)仏が持つ10種の力。宮沢賢治の童話に「十力の金剛石」がある。今年は賢治生誕120年。法華経に引かれた賢治の作品には仏教語が少なくない。9月21日は命日。
(2016年09月21日)
選択肢と回答割合
じゅうりょく | 4% |
じゅうりき | 49% |
とおりき | 46% |
欣求
ごんぐ
(正解率 41%)よろこんで求めること。極楽浄土に往生することを願い求める「欣求浄土」の形で主に用いる。「厭離穢土欣求浄土」は徳川家康の旗で知られる。厭離穢土は「えんりえど」とも「おんりえど」とも読み、汚れた現世を嫌い離れること。
(2016年09月23日)
選択肢と回答割合
きんくう | 25% |
ききゅう | 33% |
ごんぐ | 41% |
◇結果とテーマの解説
(2016年10月02日)
この週は「仏」。
いずれも正解率が50%を割る難問でした。
円成寺の境内 by IMZANIROH
中でも「忍辱」が最も低い数字です。これは彼岸に至るための六つの徳目の一つで、その他は布施・持戒・精進・禅定・知恵(般若とも)。「精進」など一般的になった言葉もありますが、「忍辱」はそうではない難読語です。しかし奈良の古寺巡りが趣味の人の中には、奈良市東郊にある円成寺(えんじょうじ)の山号が「忍辱山(にんにくせん)」で、所在地も奈良市忍辱山町であることから知っていたということもあろうかと思います。国宝・大日如来坐像のある寺ですが、周辺のたたずまいも奈良公園などの有名な観光地にはない魅力があります。写真家、土門拳も「土門拳 古寺を訪ねて」(小学館文庫)に記しています
自然そのものの中にある古寺の閑寂なたたずまいに、都塵を洗い流され、雑念を払われる思いがしたものである。
わたしにとって円成寺の魅力の一つが、この境内の自然であり、さらにもう一つの魅力は、本堂に安置されている大日如来坐像である。鎌倉彫刻の代表的作家、運慶の作である
なお食べ物のニンニクの語源も仏教語「忍辱」と関係があるようで、「強烈な臭気を我慢して食べることから」(講談社「暮らしのことば語源辞典」)といいます。
「十力」は仏の10の能力をいい「処非処智力」などがありますが、それらを列挙するより、この出題日が忌日の宮沢賢治から「十力の金剛石」を引用しましょう。ちなみに金剛石はダイヤモンドのことですが「金剛」そのものは仏教語ですので、仏教語を重ねたタイトルといえます。王子が「十力の金剛石ってどんなものだ」と尋ねると、すずらんやりんどうなどが答えるのです。
「十力の金剛石はきらめくときもあります。かすかににごることもあります。ほのかにうすびかりする日もあります。ある時は洞穴のやうにまっくらです」
「十力の大宝珠はある時黒い厩肥のしめりのなかに埋もれます。それから木や草のからだの中で月光いろにふるひ、青白いかすかな脈をうちます」
そして最後に「十力の金剛石」とは何かが明らかになるのですが、ぜひ美しい原文を味わいながら読んでほしいと思います。
「欣求」も難しかったのですが、「欣求浄土」で出題すると歴史好きなら「ああ、徳川家康の旗の『厭離穢土』の続きだ」とぴんときたのではないでしょうか。さまざまな形で殺生を重ねてきた徳川家康にとっても、「欣求浄土」は心のよりどころになる言葉だったと想像されます。この言葉は平安時代に著された源信「往生要集」に由来するようです。順を追って記される10の章のうち「一に厭離穢土、二には欣求浄土」とされます。インド哲学の中村元氏によると、10の章に関し「『十』の数を重んずることは、恐らく華厳教学の影響であろう」ということです(古典を読む「往生要集」岩波書店)。ということは「十力」の十も華厳思想の表れかもしれません。
ただし源信は「華厳経」などの経典の中から特に「弥陀仏」を取り上げ、日本の浄土教、ひいては鎌倉仏教の源流になりました。そして先祖崇拝と太陽崇拝と浄土思想が結びつき、お彼岸に墓参りするという日本独自の風習に至りました。そういえば往生要集の「欣求浄土」には「聖衆倶会(くえ)」、つまり極楽で聖者と衆生が一緒にいることができるという楽しみがあるとして念仏往生を勧めています。この倶会という言葉から連想されるのが浄土真宗の墓に刻まれる「倶会一処」という文字。これは亡くなった家族とも来世で一緒になれることと思われています。厳密な解釈とずれるかもしれませんが、これはこれで、愛する家族と死別した遺族の苦しみを和らげるための日本仏教の優しい知恵なのでしょう。
この漢字クイズでは過去にも「倶会一処」など彼岸や仏教がらみの語を多く取り上げましたが、まだまだネタ切れはなさそうです。