大金を「注ぎ込む」という場合にどう読むか伺いました。
目次
3分の2は「つぎこむ」と読む
景気対策に大量の資金を「注ぎ込む」。どう読みますか? |
そそぎこむ 25.7% |
つぎこむ 65.6% |
どちらでもよい 8.6% |
「つぎこむ」とも「そそぎこむ」とも読める「注ぎ込む」。しかし、「大量の資金を~」といった場合には「つぎこむ」と読む人が3分の2を占めました。意外に少なかったのは「どちらでもよい」という人で1割にも満たず。皆さん、使い分けを意識していることが分かります。
使用実態は「つぎこむ」が優位
似た意味を持ち同じ文字を使う言葉の読み方をどうやって調べるか。方法は幾つかありそうです。読み仮名(ルビ)のついている文献を調べるというのはその一つ。毎日小学生新聞はすべての漢字に読み仮名を振る、総ルビの紙面作りをしています。活用形を考慮して「注ぎ込」という形で、どんなルビを振っているかをデータベースで検索すると、資金を投じるという意味で使われていたのは「注(つ)ぎ込」だけでした。もっとも、通常は「つぎ込む」と書くため、例は多くありません。
辞書を引くというのももちろん一法です。ただし、ここでは英和辞典を引いてみました。資金や労力を投じるという意味では、ちょうどぴったりの「pour into」という言い回しがあります。その説明はどう書かれているか。
9点の英和辞典に当たりましたが、その全てが「そそぎ込む」ではなく、「つぎ込む」とする訳語か例文の訳を挙げていました。三省堂のウィズダム英和辞典は訳語として「注ぎ込む」を載せているものの、「pour money into the research その研究に大金をつぎ込む」という例文と訳を載せています。他の辞書も同様で、「そそぎこむ」より「つぎこむ」が好まれるという傾向を示すには十分でしょう。
「たくさん使う」場面には「つぎこむ」
「角川類語新辞典」は教えられるところの多い辞書なのですが、「注(つ)ぎ込む」「注(そそ)ぐ」についてそれぞれ、液体を流し入れる用法以外も説明しています。「注(つ)ぎ込む」は小分類「消費―金や品物を使ってなくすること」の中に「全財産を事業に―」という用例とともに載っています。意味の説明は「多くの費用や人を使う」。
「注(そそ)ぐ」は「熱中―そのことに心を集中すること」という小分類中、「細心の注意を―。完成に力を―」という用例とともに採録されています。「専ら集中する」という説明もあります。これは「そそぎ込む」になっても、「つぎ込む」のように「たくさん使う」というニュアンスよりは「集中して使う」という意味合いを持つでしょう。
大量の資金には「つぎ込む」を使いたい
新型コロナウイルス感染症による景気対策で、政府は1人当たり10万円を配布するなど、個人にも資金を供給する方向へかじを切りました。こうした資金の使い方というのは、まず大量に市中にお金を行き渡らせるのが目的のはず。集中的にお金を使うというより、ジャブジャブあふれさせるくらいが適当という印象を持ちます。
毎日新聞の記事を見ると、欧州連合(EU)でも欧州委員長が「各国政府は必要なだけ経済対策に(予算を)つぎ込むことができる」との声明を出したとのことです。こうしてみると、やはり巨額の資金には、集中をほのめかす「そそぎ込む」よりも「つぎ込む」の方がふさわしいと言えそうです。
アンケートの回答で3分の2が「つぎ込む」を選んだというのも心強いことです。仮に記者が「大量の資金を注ぎ込む」と書いてきたとしても、自信を持って「つぎ込む」に直そうと思います。
(2020年04月28日)
新型コロナウイルスによる景気後退を押しとどめるために、108兆円もの事業規模の景気対策が打たれるとのこと。大変な額の資金を「注ぎ込む」ことになります。
この「注ぎ込む」という言葉は、「注」の訓読みが常用漢字表で「そそ(ぐ)」しか認められていないため、新聞では「そそぎこむ」として扱います。たとえば「入り江に注ぎ込む川」「情熱を注ぎ込む」のような感じです。一方、「注」には常用漢字表にない訓読みとして「つ(ぐ)」があります。表外訓なので新聞では「つぎ込む」と書きますが、一般には「注ぎ込む」と書いて「つぎこむ」と読ませることも多いでしょう。
記者が原稿で「注ぎ込む」と書いた場合に、それが「そそぎこむ」と「つぎこむ」のどちらなのか迷うことがあります。「そそぎこむ」ならば漢字のままでよいですが、「つぎこむ」なら平仮名に直さねばなりません。
ことがお金の場合は、「つぎこむ」について「何かのために多くの費用を出す」(岩波国語辞典8版)のように説明する辞書が多いため、仮名に直したいところです。しかし、「そそぐ」の中に「つぎこむ」という説明を載せている辞書もあり、同じ意味で使う人も多いのだろうか、とも考えさせられます。皆さんは意識して読み分けているものでしょうか。
(2020年04月09日)