「胸が高まる」という言い回しについて伺いました。
目次
「違和感強い」が7割占める
これからを期待して「胸が高まる」――カギの中、いかがですか? |
問題ない 7.9% |
違和感はあるが、許容できる 21.4% |
違和感が強く、言い換えたい 70.7% |
期待感がふくらむ様子を表すとみられる「胸が高まる」という言い回しについては、「違和感が強く、言い換えたい」とした人が7割を占め、改めて考えると受け入れにくい言葉遣いであることが示されました。
直しにくい場合もあるが…
毎日新聞の過去記事を見ると、例えばこんな例が見られます。
日本高校野球連盟の会長は「この3代目の優勝旗を手にするのはどこの高校になるのか、期待に胸が高まっています」と話した。
(1964年の東京五輪で)聖火を人がつないでいく時の話を聞いて、ワクワク感のような胸の高まりを感じたのを覚えている。
発言や、外部筆者の寄稿中の言葉です。出題者が実際に、原稿でこれらのくだりを目にしたらどうするでしょうか。「胸が高まる」か。「胸が高鳴る」とか「気持ちが高まる」というのが普通だろうけど、意味は分かるし、直しにくいなあ。発言(寄稿)だし、このままにしておこうか――そんなふうに考えそうです。
仮に直すとしても「胸が高鳴る」と直すのはためらわれます。「高鳴る」は「動悸(どうき)が激しくなる。胸がどきどきする」(明鏡国語辞典3版)で「胸が高鳴る」は定型的な言い回しですが、例に取り上げた高野連の会長のような年配の男性が使うには、少々気持ちが前に出すぎるような印象を受けるからです。「どきどきする」と言い換えられるような場面でないと「胸が高鳴る」は使いにくく感じられます。
「胸」は程度の高低になじむか
新明解国語辞典8版は「高まる」の項目で、「物事の程度が目立って強く(高く)なる」という説明と共に「一般の関心(非難の声・評価・うねり・危機感・意欲・緊張・警戒心・重要性・不満)が高まる」と、数多くの例を挙げています。パッと見たところでは、程度の高低や強弱が関わる言葉が「高まる」になじみそうです。その意味ではやはり「胸」はなじまないのかもしれません。
ただし、回答すると見られる解説でも取り上げましたが、「胸」の意味の一つとして「心」が含まれます。「人の感情や性質、気持、考えなどをさしていう」(日本国語大辞典2版「胸」の項目)のであれば、気持ちや感情の高まりを表す用法として「胸が高まる」と言うこと自体は、完全におかしいとは言いにくいとも考えられます。
できるなら別の表現を
とはいえ、慣用句というものは、言葉を受け取る側がすぐにピンとくるものであることが望ましいでしょう。「胸が高まる?」と引っかかりを感じさせるならば、仮に意味は伝わるとしても、言葉の使い方として上首尾とは言えなそうです。基本的には「胸が高まる」は避けるようにして、「気持ちが高まる」「期待感が高まる」などと、意味の取りやすい言い方をするのがおすすめです。
ちなみに三省堂国語辞典8版には「高まる」の俗用として、「心がうき立つ」という意味が載せられています。これは「胸が」や「気持ちが」を付けなくても、気分が盛り上がってくることを表し得る使い方ですが、文章語としてはやはり使いにくく感じます。三国は似たような用法として、「上がる」の項目の中で「アガる=気分が高まる」も載せていますが、こういった使い方を積極的に取り上げるところは三国らしいなあと感じます。
(2022年01月25日)
時たま目にする「胸が高まる」という言い回し。校閲センターのツイッターでも以前、「胸が高鳴る」や「気持ちが高まる」といった表現が混ざってしまったのではないかと取り上げたことがありますが、出題者も見かけると首をひねりたくなるのは確かです。▲国語辞典を10点ほど引いてみましたが、「胸が高まる」という例を採録しているものはありませんでした。ただし、たとえば「胸をふくらませる」で「喜びや期待でわくわくする」(岩波国語辞典8版)という意味を持たせることができるなら、「高まる」が「高くなる。強まる」(同)という意味であることを考え合わせると、「胸が高まる」は「期待で気持ちが盛り上がる」のような意味を表すものだと言われても、無理筋とは言えない印象も持ちます。▲とはいえ相手にすんなり受け取ってもらえなければ、表現としての効果は期待できないのが慣用句というものです。皆さんの受け止め方が否定的であれば、やはり「胸が高まる」には引っ込んでいてもらわないといけないだろうと思います。いかがでしょうか。
(2022年01月06日)