将棋の駒の呼び方について伺いました。
目次
ほぼ半々に分かれる
将棋で、これを取られたら負けになる駒。なんと呼びますか? |
王(おう) 46.2% |
玉(ぎょく) 53.8% |
将棋で取られたら負けになる駒をどう呼ぶかは、「王」と「玉」でほぼ半々に分かれました。いずれかに人気が集まるかと思いましたが、そのようなことはありませんでした。
かつては2枚とも「玉将」か
何でも知っている博覧強記の人というイメージの強い幸田露伴は、「将棋雑話」の中で「王と玉と」という項目を設け、「王将」と「玉将」のどちらの呼び方がよいかについて触れています。江戸時代の随筆を紹介する形を取って、いわく
王将という馬子(こま)は何とも疑わしき名なり、王ならば王、将ならば将というべし、王と将と混称するの理あるまじとて将棋の諸書を攷証(こうしょう)するに、開祖宗桂より四代目宗桂まで代々著述するところの将棋図式には、双方とも玉将とありて王将の名なし、よって思うに玉を以(もっ)て大将とし、金銀を副将とするなるべし、左(さ)すれば金将銀将の名も拠(よりどころ)ありて、ひとしお面白くおぼゆ、蓋(けだ)し五代目宗桂以後双方の同じく紛わしきを嫌い、一方は一点を省きて差別せしにやあらん
(「露伴全集15」岩波書店、表記を新かなに変更)
とのこと。金将や銀将に対応するのは玉将だろうというのは分かりやすい話です。現在の本将棋以前の将棋(大将棋など)には「銅将」や「鉄将」もありました。
もっとも露伴も「但(ただ)し王将もまた古き俗称なり」として、「王将」を単に否定するわけではありません。また漢字「玉」の古い形は「王」とほとんど同じということもあり、「王将」という表記自体も否定していません。ただ「読み方としては「おうしょう」よりも「ぎょくしょう」を取る、としています。
日本最古の出土駒は興福寺の境内跡から見つかった11世紀のものですが、中に「玉将」が3枚含まれており、「三枚とも『玉将』と書かれているので、当初は『王将』ではなく『玉将』であったと推定できる」(増川宏一「将棋の歴史」平凡社新書)とのことです。そのためか、毎年名人戦第1局で使われる、いわゆる「名人駒」を彫った駒師・奥野一香のように、二つとも玉将である双玉の駒を制作する職人もいます。
とはいえ「王将」が使われ出してからの歴史にも十分な厚みがあります(平安時代から既に使われていたとも)。「おう」「ぎょく」いずれの呼び方も、問題視されるようなものでないことは確かです
「おうさま」「ぎょく」と呼ばれやすい
「王将」と「玉将」があるとはいえ、実際にはこの二つを「おう(しょう)」「ぎょく(しょう)」と読み分けることはあまりありません。この二つの駒のことを口頭で示す場合には、いずれも「おうさま」と呼ぶことが多いようです。
羽生 将棋を知らない人の中には、王様を取られたら負けなので、王将戦が一番格上だと思ってる人もいるみたいですね(笑)。
「日本将棋用語事典」(東京堂出版)
これは過去の王将戦を振り返った羽生善治九段の談話記事の一節ですが、駒についてはやはり「王様」。言いやすさ、聞き取りやすさを考えると、それが妥当なのでしょう。今回の質問では「ぎょく」に合わせるため、あえて「おう」という形で選択肢を用意しましたが、「おうさま」を挙げたならこれが多数を占めたかもしれません。
一方で、棋譜の読み上げでは、いずれも「ぎょく」と読むのが普通です。また将棋の格言も「ぎょく」一辺倒。「玉の囲いは金銀三枚」「玉は下段に落とせ」「玉は包むように寄せよ」……など。「おう」と読むのは王手に関する言い回し(「王手は追う手」「鬼より怖い両王手」など)の場合に限られます。
1月に始まった王将戦七番勝負は、羽生九段が藤井聡太王将に挑戦しています。タイトル名には「玉将」戦はなく、口の端に上りやすいのはやはり「おう(しょう)」の方だということがうかがえます。「おう」と「ぎょく」はいずれも正しい呼び方であるとはいっても、出現する場面には偏りがあるとは言えるかもしれません。
(2023年01月26日)
将棋は王手をかけて相手の玉を詰ますゲームです――出題者はこう書くことに違和感はないのですが、「おうて」で「ぎょく」を追いかけるというのは変な感じを与えるかもしれません。将棋駒としては「王将」「玉将」の双方がありますから、「おう」と呼んでも「ぎょく」と呼んでも差し支えありません。▲今の将棋駒は通常、王将と玉将が1枚ずつ入っており、上位者が王将、相手方が玉将を持つとされます。もっとも、古くは王将は存在せず玉将だけだったようです。金将、銀将といった駒との対応で考えると、宝玉を意味する玉がしっくりきます。今でも「双玉」といって2枚とも玉将の駒も存在します。▲1月8日から、藤井聡太王将に羽生善治九段が挑戦する王将戦が始まります。タイトルとしては「王将」で「玉将」ではありません。棋界を象徴する棋士が、弱冠にして五つのタイトルを持つ現在の最強棋士に挑むというぜいたくな対戦。この機会にあやかって将棋のことを伺ってみました。
(2023年01月02日)