新聞で書かれる懲役「6月」をどう読むかうかがいましたが、変則的な回答として「『6カ月』と書いてほしい」という選択肢も用意しました。
目次
「ろくげつ」と読む慣習
新聞で書かれる懲役「6月」、どう読みますか? |
ろくがつ 2.9% |
ろくげつ 30.7% |
むつき 10% |
ろくつき 15.6% | 「6カ月」と書いてほしい 40.8% |
結果は、その「『6カ月』と書いてほしい」が最多でした。では懲役の「6月」をどう読むのが正解でしょう。
今季のドラマは妙に裁判ものが多い気がします。裁判ものとは言えませんが「Believe」の第1回は木村拓哉さん演じる男に対し
「被告人を懲役1年ロクゲツに処す」
と判決が言い渡されるシーンから始まりました。6カ月のことを「六月」と書き「ろくげつ」と読むのが裁判の慣習のようです。
「裁判おもしろことば学」(大河原眞美著、大修館書店)には
法律・法廷では「一か月、二か月…」のことを「一月(いちげつ)、二月(にげつ)…」といいます。
とあります。この本などに書かれていないので「4月(げつ)」の4をどう読むか、人づてに弁護士に聞いてもらうと「よんげつ」だそうです。Aprilの4月は「し」ですが、それとは違うのですね。
刑法には「六月」と書いてありますが、読みは記されません。「ろくがつ」と読むと英語のJuneの意味になってしまうし、「ろくつき」と読む習慣もなく、「ろっかげつ」の「か」を抜かした読みが定着したのだと想像されます。
明治の法律には「六个月」も
刑法は成立した明治時代からそういう表記でした。例えば明治13年布告15年施行の旧刑法142条①に
已決ノ囚徒逃走シタル者ハ一月以上六月以下ノ重禁錮ニ処ス
とあります(有斐閣「旧法令集」より。以下の旧法引用も同様)。しかし法律すべてがそうと決まっていたわけではなく、明治23年公布の旧民法120条に
一个月、三个月、六个月又ハ一个年内ニ……
などと見えます。この「个」の字は「箇」の略字とされます。明治初期にはこの字はよく使われていたらしく、例えば岩倉具視らの使節団「米欧回覧実記」でも冒頭に見えます。
「解説字体辞典」(三省堂)によると、この「个」が「2ヶ月」などの「ヶ」に変形したとのことで、既に平安時代後期から「个→ケ」への移行過程がうかがえるとしています。ただし「箇所」の竹冠の一部から「ヶ」になったとの説もあります。
また同辞典には「戦後の国語政策では、漢字でもなく仮名でもない、このケの字の使用に対して、強い拒否反応を示してきた」とありましたが、戦前からおそらく「6ヶ月」などのヶは改まった文では避けるべきだという空気があったのでしょう。でも、代わりにどう書くべきかという基準はありません。だから法律の一方で「六月」、一方で「六个月」という形になったのだと思われます。
その後、个の字は廃れました。それを反映し、今の民法では例えば第147条で「六箇月を経過する」となっています。
なぜか令和でも明治のまま
しかし、刑法は何度も改正されましたが、この量刑表記はなぜか明治のままです。結果的に、現代の新聞でも大部分が「懲役2年6月」などという特殊な表記を維持しています。例えば2022年の元衆院議員への判決で毎日新聞は「6月」と書いています。
ただし、朝日新聞では「6カ月」の表記でした。また、毎日新聞の同じ記事を年少向けにリライトした「毎日小学生新聞」の記事では「6か月」としていました。
小学生向けには「6月(げつ)」という妙な表記を示すわけにいかなかったということです。
裁判員制度がスタート、つまり一般市民が裁判に参加するようになって15年。一般的な言葉ではない用語をやさしく言い換える努力は、現場ではある程度されていると思います。でも、片仮名の条文が平仮名に改められたように、明治のままの言い方そのものも、一般の人の感覚になじむように変えた方がいいのではないでしょうか。今回のアンケートを踏まえ、新聞社としての自戒も込めてそう思います。
(2024年06月17日)
毎日新聞に限らず、主な新聞では裁判記事で「懲役6月」などと書かれます。最近の例では元宮崎市議の「スーパークレイジー君」に宮崎地裁が「懲役4年6月」の判決を言い渡した――とあります。
これは恐らく裁判のみで聞かれる特殊な習慣で「ろくげつ」と読みます。各紙はその習慣に従い「6月」と書いているのです。しかし、月の幅の一般的な書き方は「6カ月で「6月」とは表記していません。
懲役と結びつけばきっと期間のことと分かり、単月の「6がつ」のこととは解釈されないとは思います。とはいえ「6月」という文字を皆さんどう読んでいるか気になり、質問することにしました。
(2024年06月03日)