安全を「ほしょう」するという場合の漢字表記について伺いました。
目次
「保証」と「保障」でほぼ二分
航行の安全を「ほしょう」する――どう書くのがなじみますか? |
保証 44.8% |
保障 49.5% |
上二つのどちらでもよい 5.7% |
航行の安全を「ほしょう」する、といった場合にどう表記するかという問いへの回答は、「保障」が「保証」を小差で上回りましたが、ほぼ二分という結果でした。どちらを使っても違和感を持つ人が少なからずありそうで、ちょっと困った感じです。
同音異義語だが通じ合う面も
「保証」と「保障」は異なる意味を持つ同音の語、いわゆる同音異義語ですが使い分けに迷う場面は少なくありません。その意味の違いについて文化庁「言葉に関する問答集10」(1984年)は以下のように案内します。
「保証」は、日常生活でも、「保証する」とか、「保証期間・保証書・保証付き・保証人、身元保証・連帯保証」とかの形で、しばしば用いられる語である。その意味は、「人・物について、欠陥を生じた場合、他人に及ぼす損害の責任を引き受けること」である。
(中略)
これに対して、「保障」は、「安全保障条約・社会保障」などの語によっても分かるように、「ある状態・ある地位が害を受けないように守ることを約束すること」という意味である。
いずれも「損害について当事者を保護する」という意味合いを帯びた語であることが分かります。ただし、「保証」の方は損害が起きた場合にはそれを回復するという面もあるのに対し、「保障」はまず損害を受けないようにするというニュアンスを持つようです。
「守る」か、「責任を負う」か
質問文のような「航行の安全をほしょうする」といった場合にはどちらがなじむでしょうか。問答集でも「安全保障条約」という語が挙げられていますが、これは武力で国土などが侵害された場合に、安全を守るという条約です。「航行の安全を保障する」とした場合には、安全を損なうものに対しては力に訴えてでも対抗する、というところまで意味しそうです。
一方の「保証」を使ったらどうでしょうか。新聞・通信社の用語の基準を定めた用語集でも、「安全保障」のほかに「身の安全を保証する」という用例を載せるものが複数あり、安全の「ほしょう」にも使い分けがあることを示唆します。これに従い「航行の安全を保証する」というならば、安全な状態を作り出し、もし安全に航行できないならば責任を引き受ける、という感じでしょうか。
場面に応じた使い分けを
結局のところ、どのような意味に焦点を当てたいかによって、使い分けが生じると考えられます。航行の安全について関係者が責任を負うような形で約束するなら「保証」が、具体的に実力行使する可能性が強調されるならば「保障」の方がふさわしいと考えられます。
今回の質問のきっかけは、ウクライナの穀物輸出をめぐる黒海の航行についての話題でした。この場合は複数国間の約束を通じて航行を可能にするということでしたので、「保証」がなじむと考えられたようです。とはいえ「保障」を使っても誤りというわけではありません。どのような状況を伝えたいのかを具体的にイメージして使い分けるのがよいでしょう。
(2022年09月22日)
「安全保障」という言葉は、主に国家間の紛争を防ぐ仕組みについて使われるものです。いわく「国外からの攻撃や侵略に対して国家の安全を保障すること。また、その体制。安保」(大辞泉)。この場合の「ほしょう」は一貫して「保障」が使われます。▲しかし、これがもう少しスケールの小さいことに使われるならばどうでしょうか。例えば、穀物を輸送する貨物船の安全を「ほしょう」するといった場合にはどうでしょう。▲毎日新聞用語集は「ほしょう」の項目で使い分けを案内し、「保障」の意味を「立場・権利などが侵されないように守ること」、「保証」を「請け合う、損害の責めを負う」としています。用例としては「安全保障」を挙げますが、「安全を保証する」はありません。しかし共同通信の記者ハンドブックは「身の安全を保証する」という例を載せており、安全の「ほしょう」にも使い分けがあると示します。皆さんはどのような使い方がなじむでしょうか。
(2022年08月29日)