一定の期間を超えて再び起きたことをどう書き表すか伺いました。
目次
「いずれも違和感あり」が最多
前回から10年以上の間隔が空いて起きた出来事――どう表現しますか? |
前回から「10年以上ぶり」だ 35.9% |
前回から「10年ぶり以上」だ 13.4% |
上のいずれも違和感が強い 48.7% |
上のいずれでも問題ない 2% |
10年を超える期間を経て起きた出来事に、「10年以上ぶり」「10年ぶり以上」といった形で表現するかという問いには「いずれも違和感が強い」という回答が半数近くを占め最多でした。校閲のツイッター(X)への反応では「十数年ぶり」と書けばよいというものもありましたが、そうは言い切りにくいのが実情です。
違和感はどこから来るのか
「〈時間を表す語に付いて〉再び同じ状態になるまで、それだけの期間が過ぎていることを表す」(明鏡国語辞典3版)のように使うのが「ぶり」です。「前回から10年ぶりだ」というなら、全く違和感はありません。これが「10年以上ぶりだ」になると変な感じがするというなら、「以上」に問題があると言ってよいでしょう。
回答した際に見られる解説でも書きましたが、「しばらくぶり」のように、数量が明示的でない語に「ぶり」がついてもおかしい感じはしません。「しばらく」が「時間を表す語」として受け入れられているためです。概数でも「約10年ぶり」や「二、三十年ぶり」などは違和感がありません。「10年以上」の場合は「ぶり」の前に来る「以上」が、「時間を表す語」と言えないと感じられやすいようです。
「10年以上ぶり」まだマシか
しかし一方で、アンケートでは約3分の1が「10年以上ぶり」を選んでいます。こちら「10年以上」で一定の時間を表す塊だ、と考える立場でしょう。口頭表現としてはありそうだな、とは思います。口頭語としての「ぶり」は、「卒業ぶり(=卒業以来)」のような、従来の規範から外れた使い方が浸透しつつあり、これに比べれば「10年以上ぶり」はまだ規範的と言えるかもしれません。
青空文庫を検索してみると、1件だけ「以上ぶり」で当てはまるものがありました。宮本百合子の1943年の日記で「ともかく一年以上ぶりで~」というくだりが出てきます。プライベートな書き物でくだけた表現が出るのはおかしいことではなく、使い方としてあり得ないものではないという事例になりそうです。
10年以上≠十数年
校閲のツイッター(X)への反応では、「十数年ぶり」と書けばよい、という意見がありました。言葉としてその方がこなれているということは間違いありません。ただ、これを書き換えとして、校閲の立場で提案できるかというと難しく感じます。
今回の質問のもとになった、パレスチナのヨルダン川西岸地区で「国連職員が犠牲になるのは10年以上ぶりだという」のような取材源の情報に頼った話では、過去10年ないことだったのが確かだとしても、以前の出来事が十数年前なのか、もしかすると20年以上前なのかはっきりしません。提案するとしたら「前回国連職員が犠牲になったのは10年以上前のことだという」といった書き換えになるでしょうか。出題者としては少し「直し過ぎ」のように感じますが。
一方、「10年ぶり以上」のほうはどうでしょう。これは「前回から10年ぶり以上だ」では違和感があっても、「前回から10年ぶり以上になる」だと違和感が薄れるように感じます。これは単に、数値が「10年」を上回るというのではなく、「前回から10年ぶり」という事態を上回る事象が発生している、という趣旨の文と考えれば収まりがよいように思います。今回の質問では違和感を持たれやすい選択肢にしましたが、使い方が違うと考えていただければと思います。
アンケートの結果としては、「10年以上ぶり」などが違和感を持たれやすい形だということは分かったと思います。しかし、許容する人もある程度はおり、ダメとも言いにくい表現ではあります。書き言葉としてはなじみにくいということを踏まえた上で別の書き方を検討する、というのがとりあえずの方針になるでしょうか。
(2024年11月04日)
「ぶり」は「〈時間を表す語に付いて〉再び同じ状態になるまで、それだけの期間が過ぎていることを表す」(明鏡国語辞典3版)言葉です。10年が過ぎていれば「10年ぶり」となり、「しばらくぶり」のように数量が明示的でない言葉にも付きます。
この「ぶり」にかかる期間が、例えば「10年以上」ならどうなるか、というのが今回の質問です。先日、毎日新聞の記事中に、パレスチナのヨルダン川西岸地区で「国連職員が犠牲になるのは10年以上ぶりだという」との表現が載りました。ここでは「~年以上ぶり」が使われています。
しかし何だか落ち着かない感じがするのは、「ぶり」に直接つく「以上」が「時間を表す語」とは言いにくいせいかもしれません。語順を変えた「~年ぶり以上」という形も見ることはありますが、そのほうがよいとも言い切れないようです。皆さんはどう感じるでしょうか。
(2024年10月21日)