「からあげ」の表記について伺いました。
目次
8割が「唐揚げ」を使用
みんな大好きな鶏の「からあげ」。漢字交じりだとどう書きますか? |
唐揚げ 79.4% |
空揚げ 3.7% |
から揚げ 17% |
予想通り「唐揚げ」が多数。それも全体の8割と圧倒的でした。新聞などが使ってきた「空揚げ」はわずか3.7%。今般の毎日新聞のルール変更も世の大勢を受けてのものではありますが、実にはっきりした差が付きました。
新聞・通信社も「唐揚げ」に傾く
2010年ごろまでに出た新聞・通信各社の用語集では全社が「空揚げ」を使用していました。しかし、NHKが11年に漢字表記を「①から揚げ ②唐揚げ」に変更。その後、毎日新聞も含め通信・新聞計4社の用語集で「唐揚げ」表記が採用されており、潮目が変わったことがうかがえます。
表記は根拠がしっかりしていることが大事ですが、同時代の表記と食い違いが大きくなるなら、時代に合わせて変更する判断が下されることもあります。例えばヒソヒソ話の「ないしょ」は、語源である仏教語の「内証(ないしょう)」に基づき、長らく「内証」の表記を使用していましたが、現在では「内緒」を用いています。「空揚げ」表記もこれほどに支持を得られないなら、「唐揚げ」に表記が変わるのも自然なことと言えるでしょう。
表記のルーツはたどれず
日本国語大辞典の語釈では「から-あげ【空揚】料理の揚げ物で、ころもをつけないで、魚肉などを油で揚げること。また、その料理。中華風のものには『唐揚げ』の字を当てることが多い」。「中華風の~」というくだりは2000~02年刊行の2版で付け加えられたもので、何とかして表記に理由付けをしようという苦心がにじみますが、少なくとも現在では、そういった使い分けがされている形跡はありません。
そもそも「空揚げ」を使っていた根拠もはっきりしません。衣を付けない、ないしは天ぷらのようなしっかりした衣はないことから「空」を使うのだと伝え聞きますが、根拠を示されたことがあるわけでもありません。
歴史上は「唐揚」という表記が先に存在したことが知られています。日本唐揚協会会長兼理事長の安久鉄兵さんは「唐揚げのすべて」(中公新書ラクレ)において「中国から伝来した普茶料理の中に『唐揚』とあり、『からあげ』または『とうあげ』と読みました」と言います。しかし、この「唐揚』は「豆腐を細かく切り油で揚げ、さらにしょうゆと酒で煮るもので、現在の『唐揚げ』とは似ても似つかない料理だった」とも。現在の表記の根拠にはならないようです。
川上行蔵「日本料理事物起源」(岩波書店)によると現在の「からあげ」のような薄い衣を付けた揚げ物は、江戸時代・元禄以前に書かれたとみられる「南蛮料理書」に出ているといいます。ただし「『空揚』という呼び名は江戸時代にはなかった」とも。「唐揚げ」には触れていませんが、触れるまでもなく存在しなかったということでしょう。「空揚げ」も「唐揚げ」もなかった、では話が進まないのですが……。
よく分からないが、今は「唐揚げ」が主流
結論から言うとよく分からない「空揚げ」「唐揚げ」表記のルーツ。日国2版を見る限り、用例の表記は「虚揚」「から揚げ」「空揚げ」なので、「唐揚げ」は比較的新しい表記である、とは言えそうなのですが……。NHK放送文化研究所のウェブサイトでも話題になっていますし(最近気になる放送用語 「空揚げ」?「唐揚げ」?)、ネットニュースのサイト(JBPress)でも取り上げられています(「空揚げ」か「唐揚げ」か、問題の根っこは深かった)。興味のある向きはご参照ください。
現在の傾向が進めば、「空揚げ」表記の最後のとりでだった新聞も「唐揚げ」になってゆくことでしょうから、「空揚げ」という表記を目にする機会はなくなるのではないかと思います。そう考えるとなにやら寂しい気もしますが、言葉の変化とはよく分からないうちにも進んでいくという好例であろうと考えます。
(2019年05月31日)
「みんな大好き」などというのはファクト軽視とおしかりを受けそうにも思うのですが、「からあげ」が嫌いな人は少ないのではないかと思います。
その「からあげ」、漢字を使うとどう書くか。「唐揚げ」に決まってるでしょ、と言われるかもしれませんが、毎日新聞では長らく「空揚げ」の表記を使っていました。なぜか。天ぷらのような衣が付いていないことから「空揚げ」とされる、という説が有力です。新聞他社や通信社も同様に「空揚げ」を使用していました。
しかし近年になって「唐揚げ」も許容する社が出始め、毎日新聞も今月から運用を始めた2019年版の毎日新聞用語集で、「からあげ」の表記を「空揚げ」から「から揚げ、唐揚げ」に改めました。みなさんの使用実態に即したものになったと考えていますが、回答はどのような傾向を示すでしょうか。
(2019年05月13日)