「いつぶり」という言葉について伺いました。
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「おかしい、使わない」とした人が最多だが…
やっと会えた! 会うのは「いつぶり」だろう――カギの中、どうですか? |
おかしくないし、自分でも使う 28.8% |
おかしくはないが、自分では使わない 8.5% |
おかしいと感じるが、使うことはある 26.7% |
おかしいと感じるし、自分では使わない 36% |
いつ以来、という意味の「いつぶり」という言葉については「おかしいと感じるし、自分では使わない」という人が3分の1強で最多でした。しかし、この言葉を使うか使わないかという点から見ると、回答の過半数は「使う」としており、広く使われるようになっていることが見て取れます。
「おかしい」と思いつつも…
今回のアンケートは、「いつぶり」という言い方について「おかしい/おかしくない」のいずれかを伺うと同時に、「自分で使う/使わない」という点ではどうかを問うものでした。それぞれをまとめて回答を整理すると下のようになります。
・「いつぶり」はおかしい 62.7%
・おかしくない 37.3%
・「いつぶり」を使う 55.5%
・使わない 44.5%
「おかしい/おかしくない」という判断に関しては「おかしい」とした人が3分の2近くと多数を占める一方で、「使う/使わない」という観点からは「使う」とした人が過半を占めるという興味深い結果になりました。おかしいと分かっていても使う人がいることによって広まっている用法と言えそうです。
「誤り」「俗用」と特記する辞書
明鏡国語辞典3版は接尾語「ぶり」の項目で、「注意」として以下のように説明します。
「大学二年ぶりの再会」など、「ぶり」の前に〈物事の起点〉がくる言い方は誤り。「ぶり」の前には〈経過した時間〉がくる。また、「先生に会うのはいつぶり?」など、時を尋ねるのに「いつぶり」と言うのも誤り。正しくは「何年ぶり」「いつ以来」。
この説明のうち、「また」以下の「いつぶり」に関する部分は明鏡2版(2010年)の時点では無かった部分で、3版(2020年)で加えられました。取り立てて「誤り」と指摘すること自体が、「いつぶり」という言葉がよく使われるようになったことを物語るようです。
一方、三省堂国語辞典8版は以下のように言います。
〔俗〕〔しばらくとぎれていたことについて〕…以来。「君と会ったのはいつぶりかな・去年ぶり」〔一九八〇年代から例がある用法〕
新しい用法を積極的に取り上げる三省堂国語辞典ですが、この説明は7版(2014年)には無く、8版(2021年)で加えられたものです。三国は「誤り」ではなく「俗用」としていますが、やはり実態として使用頻度が無視できないものになったのだと読み取るべきではないでしょうか。
規範的ではないが浸透進む
今回取り上げた「いつぶり」という用法は、実は校閲記者が仕事で使うチャットツールでも見かけたことがあります。誤りと言われる用法であることを承知した上でも、なんとなく使いやすく、十分伝わる言い方だと考えられているのでしょう。アンケートで、おかしいと感じつつも使うことがあると答えた人の割合から見ても、少なからぬ人がそのように考えているとみられます。
校閲の現場で「いつぶり」のような、「ぶり」に「以来」の意味を持たせる用法が許容されることは当分ないだろうとは思います。しかし、辞書の取り上げ方を見ても、近年勢いを得ている用法であることは確かなようです。今後どうなるかが気になる言葉です。
(2022年06月23日)
質問文のような「いつぶり」を最近はよく見かけます。この「ぶり」は本来、時間を表す語に付いて「再び同じ状態になるまで、それだけの期間が過ぎていることを表す」(明鏡国語辞典3版)ものです。期間を表す表現であれば、「3年ぶり」のように具体的でも「しばらくぶり」のようにあいまいでも使うことができます。▲しかし、「『ぶり』の前に〈物事の始点〉がくる言い方は誤り」で、「時を尋ねるのに『いつぶり』と言うのも誤り」(同)とされます。「いつ以来」「何年ぶり」などとするのが従来の標準的な言い方です。▲一方で、新しい用法を積極的に採集する三省堂国語辞典(8版)は、俗用としつつも「〔しばらくとぎれていたことについて〕…以来。『君と会ったのはいつぶりかな・去年ぶり』」という説明・用例を載せ、1980年代から例がある用法だと言います。誤りとされていた表現でも使われ続けることで定着してゆけば、やがて標準的な用法となります。出題者は「いつぶり」にもそんな気配を感じるのですが、みなさんはどうでしょうか。
(2022年06月06日)