ビルについて「たつ」という場合の表記について伺いました。
目次
「使い分ける」がやや優勢
町の外れに「たつ」ビル――漢字ではどう書きますか? |
立つ 31.6% |
建つ 28.9% |
状況によって使い分ける 39.6% |
町の外れに「たつ」ビル、という場合の表記について伺ったところ、結果はほぼ三分されました。その中でも「使い分ける」がやや優勢で4割弱を占めましたが、書き分けについては国語辞典などでも見解は分かれるようです。
「立つ/建つ」の差は
円満字二郎さんの「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社)は、「たつ/たてる」の項目で
基本1:ほとんどの場合は《立(りつ)》を用いる。
基本2:特に「建設」する場合は、《建(けん)》を使う。
としています。であれば「町外れにたつビル」の場合も、現にその場に存在しているビルであれば「立つ」、建築中ないし今後たつ予定のビルであれば「建つ」ということになるはずです。が、同書は次のようにも説明します。
悩ましいのは、「倉庫が立っている」「テレビ塔が立っている」「お墓が立ち並んでいる」など。“ある場所にきちんと存在している”という意味だから、《立》を書いてもおかしくはない。しかし、“造り上げられている”ことを重視して、《建》を用いて「倉庫が建っている」「テレビ塔が建っている」「お墓が建ち並んでいる」とすることが多い。
要するに、「建築」「建立」されたものについては、その「建てた結果である」ことを意識して「建つ」という表記がよく使われるということです。
書き分ける? 書き分けない?
三省堂国語辞典(8版)は「建つ」の項目の説明を「〔建物などが〕つくられ(て、その場所にあ)る」としています。建築の時点だけでなく、その後存在することについても「建つ」に含まれるという考え方です。
毎日新聞用語集は、建物については建築も存在も「建つ」で表記することにしています。こうしたルールは文の見た目を整える面で役に立つこともあり、例えば「20年前に建った塔は、度重なる災害を経ても今なおそこに建っている」のように書くことができます。
一方、明鏡国語辞典(3版)は「建つ」の項目で、「書き分け」として「『ビルが立っている/建っている』では、前者はビルがすっくと立っていることに、後者は建設中であることや建築の結果そこに存在していることに注目していう」としています。
共同通信の記者ハンドブック(14版)は「たつ・たてる」の項目で「使い分けに注意」としたうえで
▼家が立つ〔存在している〕
▼家が建つ〔建築される〕
として書き分けを案内しており、他社のルールながら、これには意味をはっきりさせるメリットがあると感じます。ただし、明鏡の説明は「建築の結果そこに存在していること」までを含むので、必ずしも使い分けが「正解」としているわけではありません。
ルールを意識して書ければOK
あちこちから引用してきましたが、
① 存在には「立つ」、建築には「建つ」を使う
② 建物にはおしなべて「建つ」を使う
の二つのルールがあり、辞典などの説明を見る限りではどちらでも構わないと言えます。
意味の上で分かりやすいのは①、表記の見た目をコントロールしやすいのは②でしょう。書き方がまちまちになるのを避けるためには、自分なりにいずれかのルールを意識して表記するのがよいと考えます。
(2024年03月25日)
何かが「ある場所にまっすぐ縦になっている」(大辞泉)ことを表す「たつ」。質問文のような光景なら、町外れにビルが存在する状態を指して使っていると考えられます。その場合は、広く使うことができる「立つ」がなじみやすいでしょうか。
ただし、質問文の場合、そのビルはもしかするとこれから建設されるところ、あるいは今まさに建築中なのかもしれません。「今度、町の外れにたつビル」というなら、ここは「建つ」と書くのがなじむでしょう。同じような文であっても、使い分けが生じてくるということです。
あるいは、ビルは建物なのだから、どんな場合も「建つ」で済ませてしまうことにすれば、使い分けに頭を悩ます必要もなくなります。実は毎日新聞はその方式で、建物についてはすべて「建つ」を使うことにしています。もっとも、このやり方はどうなのかと気になることもあり、皆さんの意見を伺ってみたいと思いました。いかがでしょうか。
(2024年03月11日)