天気やその場の雰囲気などに使う「荒れ模様」の意味についてうかがいました。
目次
「荒れそうな」「荒れている」割れる
天気などに使う「荒れ模様」の意味は? |
荒れそうな様子 46.6% |
荒れている様子 38.6% |
上のどちらにも使う 14.8% |
辞書に多い意味の「荒れそうな様子」が5割近くと最も多かったのですが、「荒れている様子」と大きな差は付きませんでした。「どちらにも使う」を合わせると、半数以上が「荒れている様子」と解釈する可能性があるという結果です。
「雨模様」と似た傾向
この傾向は、よく話題になる「雨模様」と似ています。今年発表された2022年度の文化庁「国語に関する世論調査」によると、本来とされる「雨が降りそうな様子」の意味と答えた人は37.1%。「小雨が降ったりやんだりしている様子」は49.4%でした。
「雨模様」はもと「雨もよい」だったというのが定説です。柳田国男の「毎日の言葉」(1946年)によると、模様という漢語と、「催す」の古語「モヨウ」が混同された結果とのこと。「純日本語」である「モヨウ」を、漢字で書こうとした人が区別なく「模様」と表記したために混乱が生じたといいます。
モヨイは本来は時の感覚で、模様や文様のように眼に訴えるものでなかったのです。
雨もよい・雪もよいを、御天気モヨウと謂(い)ったりするのは、少しでも模や様では無いのであります。
モヨイが「本来は時の感覚」とすると、今の「催す」とも意味が違いますが、「雨もよい」は「時間がたつと雨が降りそうな感じ」と解釈すると合点がいきます。
しかし、モヨウが「催す」へと変化する一方で、「雨」と「模様」が結びついたことにより意味の混乱が生じたのは、不可避の成り行きのように思います。
飾りたくて「模様」を付ける?
新潮日本語漢字辞典には「模様」の③の意味で「予測される様子」とする前に「②天候などの状態。人や物事の様子。『雨模様』」とあります。つまりこれは「雨が降りそう」というよりは「雨の状態」としての「雨模様」を示したと解釈できます。
「模様」という語は「人生模様」「心模様」などと接尾語的な造語力が強いのですが、なくても分かる、飾りというか、それこそ「模様」のように付ける使い方が多くなっているようです。「雨模様」も降っているなら「雨」だけでいいはずが、なんとなく飾りたくて「模様」を付けてしまう人が多いのではないでしょうか。
ちなみに、日本国語大辞典には「雨もよに」という古語が掲げられています。意味は「雨が間断なく勢いよく降るうちに」。この「雨もよ」は「雨模様」「雨もよい」と関係ないかもしれませんが、似たような語として、雨が降っている状態を意味する表現が古くからあったことがうかがえます。
曖昧な「模様」は避けたい
思わず「雨模様」が長くなりましたが、「荒れ模様」も「模様」の字がある以上、雨模様と同様に解釈が割れていくのは、必然の流れかもしれません。
辞書では「荒れ模様」の意味は
①天気が荒れそうな様子。
②人の機嫌や物事の状況が荒れそうな、あるいは荒れている様子。(大辞林4版)
などと、②で実際荒れている時の使い方を付記するというものが少なからず見られます。①の天気については「荒れそう」という語釈だけのものがほとんどなのですが、広辞苑は6版(2008年)で既に「転じて、悪天候」という意味を加えています。明鏡国語辞典は2002年の初版から「俗に、悪天候の意でも使う」という注釈を加えています。
芥川龍之介の小説「素戔嗚尊(すさのおのみこと)」(1920年)には、「風雨も依然として止まなかった」とある直後に「この荒れ模様の森林」と出てきます。明らかに「悪天候」の意味で100年以上前から使われていることが分かります。
ただ、そのように意味がはっきり読み取れるならいいのですが、「天気が荒れ模様なので出発を見合わせた」となるとどちらでしょう。荒れているのか荒れそうなのか分かりませんね。
気象庁のウェブサイト「天気とその変化に関する用語」では、「模様」は「意味がいろいろに解釈され誤解をまねきやすいので用いない。具体的な天気を明示する」となっています。毎日新聞でも「雨模様」についてはこの語自体を避け、小雨なら「小雨が降る中」などと具体的に書くようにしています。
ただし「荒れ模様」を規制する決まりは今のところ毎日新聞にはありません。あまり議論にもなっていないようです。荒れ模様は結局荒れてしまうケースが多いので、「荒れそう」も「荒れた」と同じことになり、結果的に混乱を来すケースはあまりないのかもしれません。
とはいえ、特に事実が重要な新聞記事では、意味がどちらとも取れそうな文脈では避けるべきでしょう。「天気が荒れ模様なので出発を見合わせた」とあれば、本当に荒れた天気なら「荒天のため出発を見合わせた」など、あれこれ工夫すべきです。
(2023年11月27日)
天気に限らず、その場の雰囲気の比喩としても使われる「荒れ模様」。多くの辞書は「今にも悪くなりそうな気配」などと記しています。しかし広辞苑には「転じて、悪天候」との意味が加わっています。
「雨模様」も本来は「雨が降りそうな様子」を表していたのですが、2022年度の文化庁「国語に関する世論調査」では「小雨が降ったりやんだりしている様子」という意味と答えた人の方が多くなっています。「荒れ模様」にもその傾向が及んでいるのでしょうか。
実際「荒れ模様で土砂降りの中」というような文例も見つかります。記者会見場が「荒れ模様」という場合は荒れそうなのか、現に荒れているのか、解釈に困ります。皆さんの心模様はいかがでしょう。
(2023年11月13日)