「愚直」という言葉の印象などについて伺いました。
目次
「良い印象」が3分の2を占める
彼は仕事に「愚直に」取り組んでいる――言葉から受ける印象はどうですか? |
「ひたむきに」という意味に取り、良い印象を受ける 32.8% |
「正直すぎて気が利かない」と取り、悪い印象を受ける 13.8% |
上の二つを同時に意味し、良い印象の方が強い 35.2% |
上の二つを同時に意味し、悪い印象の方が強い 18.2% |
意味と印象について織り交ぜた質問でした。意味については「ひたむき」と「気が利かない」を同時に意味するとした人が過半数。印象については「良い印象」とした人が3分の2で、はっきりと差を付けて多数を占めました。
毎日新聞用語集は注意を呼びかけ
毎日新聞用語集は、「愚直」という語について「誤りやすい表現・慣用語句」の欄で次のように案内します。
「正直過ぎて気のきかないこと」「ばか正直」の意味。自らや身内を謙遜して言ったり、辛口の批評であえて使ったりすることはあるが、人への評価としては不快に感じられることもあるので、書く場合はその点に留意する
回答からの解説にも記したように、自ら口にする場合は謙遜の表現と見なしうる言い回しですが、他人に対して使うのは難しい表現だということです。「愚」という文字からしても、一見したところ好意的な言葉とは言いにくい。「いちず」「ひたむき」のような似た意味で使われる言葉もあります。用語集は、あえて「愚直」という言葉を選ぶなら、それなりの理由付けが必要だと注意しているわけです。
マスコミでも「直さない」社も
「愚直」については以前の「毎日ことば」の記事でも紹介したことがあります(直す?「連投」「愚直」「走り」「くさびを打ち込む」「胸騒ぎ」)。日本新聞協会用語懇談会に報告された、2014年秋実施のアンケート(毎日新聞大阪本社が関西地区で幹事社として主導)をもとにした記事でした。
改めて紹介すると、「愚直に稽古(けいこ)を積んだ大関」のような言い回しをどうするかについて聞き、結果は「直す」とした社が12.5社、「直さない」とした社が8.5社というもの(「0.5」はどちらとも言えないとした社)。協会加盟社でも「直さない」とする社が意外に多いと感じます。「直さない」理由としては「さほど違和感はない」「肯定的なニュアンスで使う場合もある」など。今回のアンケートでも「良い印象」を受けるという意見が強かったことから見て、こうした捉え方もゆえなきものとは言えないようです。
郵政の新社長も発した「愚直」
かんぽ生命の不正販売問題を受け、新たに日本郵政の社長に就いた増田寛也元総務相は、幹部に対する年頭あいさつで「愚直に誠実に謙虚に進んでほしい」と呼びかけたとのこと。
この場合の「愚直」は、かんぽの問題が契約者をだますような形で生じたものだけに、文字通り「ばか正直」と受け止めてもよい使い方でしょう。それでも、この語から受ける印象が悪いものであるならば、再出発に当たっての言葉で使うことはないはず。世間の風潮としても、小ざかしさを捨てるという意味合いで、むしろ「愚」であることが尊重される場面がありそうです。
自分について使う分には問題なし
現時点において、「愚直」の意味は良くも悪くも解釈されうるが、印象としては決して悪い言葉とは見られていない、というのが今回のアンケートの結果だったと思います。特に自分の仕事などについて「愚直に取り組んでいきたい」と言った場合に、相手に不快感を与えることはあまりないと考えてよさそうです。
ただし、不特定多数の人に向けて情報を発信するメディアとしては、「悪い印象」という3割超の人にも目配りする必要があります。取材相手のコメントを引用するような場合を除いては、他の言葉に言い換えるか「愚直なまでに」のような形にするなど、配慮が必要な言葉と考えます。
(2019年01月17日)
「愚直」という言葉は、国語辞典では「知恵がなく正直一途(いちず)で、臨機応変の才がないこと。また、正直すぎて気がきかないさま。ばか正直」(日本国語大辞典2版)などと説明されます。「知恵がなく」というのは表現がきついとは思いますが、他のなによりも「正直、きまじめ第一」だ、というあり方が感じられます。
しかしこの言葉は、必ずしも否定的なニュアンスで使われるわけではありません。政治家は自分の主張を「愚直に訴えていく」と言いますし、自分の仕事について「愚直に取り組む」と言う人は毎日新聞の過去記事でも多数見られます。自ら口にする人の場合は「非才の身ながら~」のような謙遜の表現と同様に使われるのでしょう。不器用でも地道に、ひたむきに、というところでしょうか。
ただし、これを他人の評価に使うとなると話は違ってきます。「彼は愚直に取り組んでいる」というのは、正直いちずにやっていることを評価しているのか、それとも融通が利かないとくさすのか、あるいはその両方なのか。ことメディアにおいて、記者が取材相手について「愚直」という言葉を使うことには、相手に失礼に当たるのではないか、読者にも悪い印象を持たれるのではないかと気になります。今回の質問は辞書の説明では分かりづらい、受け手の印象という点から伺ってみました。
(2019年12月26日)