「広がる」と「広まる」の使い分けについて伺いました。
行動範囲は「広まる」か「広がる」か
広くなること。「行動範囲が~」というならどちら? |
広まる 6.5% |
広がる 87.9% |
どちらでもよい 5.7% |
「行動範囲が『広がる』」とした人が全体の9割弱という圧倒的多数を占めました。校閲記者としても、実際に「行動範囲が広まる」と書かれてあったら「広がる」に直します。ただし、その根拠をはっきりさせるのは意外に大変かもしれません。
試みに辞書を引くと、大辞林(3版)の「広がる」の項目には、そのものズバリの語釈と用例が出ています。「広がる ……③規模などが大きくなる。『行動範囲が―・る』」。
やはり「広がる」で問題ないではないか、と言いたくなりますが、公正を期して「広まる」も引かねばなりません。「広まる ①広くなる。『範囲が―・る』」。……あれ? 「行動範囲が広がる」で、「範囲が広まる」? それは「どちらでもよい」ということなのでしょうか。
広辞苑(7版)も「広まる」の項に「勢力範囲が広まる」という用例を出していますし、集英社国語辞典(3版)は「広まる」の語釈に「範囲が広くなる」を挙げています。
しかし9割近くの人が「行動範囲が~」なら「広がる」だとしたのですから、辞書の説明がかようであっても、簡単に「どちらでもよい」とすることはできません。
回答からの解説でも引いた大辞泉(2版)は「広がる」の項で、使い分け方をなるべくはっきり説明しようとしています。
▽「広がる」は自然現象として、また人の営みの結果として、面積や範囲が大きくなる意。「眼下に広がる大平原」「火事が広がる」「事業が広がる」▽「広まる」は自然にという意は少なく、人が大きくのばそうと努めた結果、行きわたるの意が強い。「OA機器の利用が広まる」「教育が全国民に広まる」
この理解で行くと、「行動範囲が~」という場合は人の成長や移動手段の獲得による結果としてのことなので、「広がる」が適切ということになります。
大辞泉ほど明確に使い分けを主張してはいないものの、明鏡国語辞典(2版)は「広まる」の項で「……②範囲が大きくなる。『試験の範囲が―』」という語釈、用例を挙げつつも、注記して「まれな言い方で、『広くなる・広がる』のほうが一般的」としています。
少なからぬ辞書が「広がる」「広まる」を同様に説明するとしても、このような理解の方が私たちの語用の実態に沿う、というのが今回のアンケートの結果だったのではないでしょうか。
(2018年04月17日)
大辞泉2版は「広がる」の項目に「補説」として、「広がる」と「広まる」の用法の違いを載せています。
それによると「大地震のうわさが~」ではどちらも可。「広がる」は自然現象または人の営みの結果として面積や範囲が大きくなること、「広まる」は人が大きくのばそうと努めた結果として行き渡ること、として使われるといいます。
「行動範囲が~」の場合は、人が成長したり新たな移動手段を得たりして行き来できる範囲が広くなることなので「広がる」が適切でしょう。
「広まる」は新聞記事では「旧姓の通称利用が広まる」「新たな働き方が広まる」のように使われ、「普及する」「知られるようになる」といった意味合いでは、「広がる」よりもこちらが選ばれています。
(2018年03月29日)