地震の多さは相変わらずの日本列島ですが、某所で震度5の地震が起きた際のこと。記事に「○○で震度5強/1週間は余震も」という見出しが付いたので、校閲から注文を付けました。「済みません、この『余震も』というのは『警戒を』とか違う感じにできませんか?」
見出しを付けた整理記者は「あれ? 余震って使っちゃ駄目なんだっけ」と少し不思議そうな顔。こちらは重ねて言いました。「『余震』という言葉を使ってはいけない、ということではないですし、ルールとして決めたわけではないのですけれど、注意を呼びかける文脈では使わないようになってきているんです」
きっかけは2016年4月の熊本地震です。皆さんご存じの通り、熊本地震ではまず大きな地震が起きたにもかかわらず、2日と置かずに更に大きな地震が起き、被害をより深刻なものにしました。
政府の地震調査研究推進本部ではこれを受け同年8月、「大地震後の地震活動の見通しに関する情報のあり方」と題した報告書を発表しました。その中で同本部は、熊本地震の1度目の大きい地震の後、なお起こりそうな地震への注意を呼びかけた際に「『余震』という言葉を用いたために、より大きな地震、あるいは、より強い揺れは発生しないというイメージを情報の受け手に与えた可能性がある」と反省の言葉を述べています。
そして、防災上の呼びかけにおいては「『余震』という言葉を使うのではなく、『地震』という言葉を使用することが望ましい」とする運用上の注意点を挙げています。気象庁はこれに従い、注意喚起する文脈においては「余震」を使用しないようになりました。
新聞も地震や気象災害などでは、基本的に気象庁の発表情報に基づいて報道します。冒頭に挙げた地震についての記事も、本文は「今後1週間程度は最大震度5強程度の地震に注意が必要」と記しており、「余震」は使っていません。この方向はメディアの大勢と言ってよいでしょう。
マスメディアの用語について議論する、日本新聞協会の用語懇談会が同年11月に開いた総会でも「余震」が話題に上りましたが、特にリアルタイムで情報を伝えるテレビにおいては、気象庁の方針を受けて注意喚起では「余震」を使わないとする社が多くなっていました。
もちろん「余震」という言葉自体を使用禁止にしているわけではありません。既に起こった地震については、「○日の地震は東日本大震災の余震とみられる」というように、従来通り使われます。要は、言葉の使い方によって、情報を受け取る人の防災への姿勢が変わる可能性があるかどうかということです。
そして、言葉によって少しでも災害の被害を小さくできるというのであれば、メディアの側としても一層の注意を払って、的確な用語の選択を心がけなければならないでしょう。
【大竹史也】