カタカナの「ヴ」を使うかについて伺いました。
目次
「ほぼ『ヴ』を使う」は3分の1強
英語などの「V」に対応した表記とされる「ヴ」。使いますか? |
Vでつづる語はほぼ「ヴ」を使う 36.2% |
Vでつづる語は「ヴ」を使うこともある 56.9% |
使わない 6.9% |
質問の仕方がやや曖昧だったかもしれませんが、「V」でつづる語には「ヴ」を使うこともある、という人が過半数を占めました。必ず「ヴ」を使うわけではないけれど時々は「ヴ」を使う、という人が多数派。ほぼ「ヴ」を使うという人が3分の1強と、外国語のつづりに自信のある人も多いようです。
「ヴ」は「ヴ」音に――?
1952年の国語審議会報告「外来語の表記」では「原音における(中略)『ヴァ』『ヴィ』『ヴ』『ヴェ』『ヴォ』の音は、なるべく(中略)『バ』『ビ』『ブ』『ベ』『ボ』と書く」としていました。もっとも、「外来語用例集」には「ヴォキャブラリー」「ランデヴー」のような例も出ていますから、当時において外国語という意識が強かったものについては「ヴ」でもよいということだったのでしょう。
91年の内閣告示「外来語の表記」には以下のようなくだりがあります。
「ヴァ」「ヴィ」「ヴ」「ヴェ」「ヴォ」は、外来音ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォに対応する仮名である。
〔例〕ヴァイオリン ヴィーナス ヴェール
ヴィクトリア(地) ヴェルサイユ(地) ヴォルガ(地)
ヴィヴァルディ(人) ヴラマンク(人) ヴォルテール(人)注 一般的には「バ」「ビ」「ブ」「ベ」「ボ」と書くことができる。
〔例〕バイオリン ビーナス ベール
「ヴァ」はどんなときに使うのかって? そりゃ「ヴァ」って音を表すときだよ――というのは文字にすると冗談のようなやり取りですが、上の引用で言っているのはそういうことです。こうしてみると、「ヴ」を使いたいという場面はあまりないのかもしれないと出題者などは感じるのですが、いかがでしょうか。固有名詞でも「ヴィヴァルディ」はくどい感じがして「ビバルディ」でよいではないかと思いますし、ヴァイオリンなど普通名詞は、特に構えて使うのでなければバビブベボ表記の方がしっくり来ます。
一般語にはバ行が標準的
ウェブで見られる一般社団法人テクニカルコミュニケーター協会の「外来語(カタカナ)表記ガイドライン」は「原語の『V』音には『バ』『ビ』『ブ』『ベ』『ボ』を充てる」としています。その説明には「canvas、telephone service、versionなどV音を含む語に対するカタカナ表記が、調査したすべての辞書、用語集等において『バ、ビ、ブ、ベ、ボ』が使用されていた」とあり、日本新聞協会加盟社の用語集ならどれを見てもそうなるはず、とは思うのですが、辞書類も含めて現在では一般語はバ行が標準的と認識されていることが分かります。
「ヴ」を使うこともあるとした人は、おそらくは固有名詞に使う場合が多いのではないかと思います。「ヴェルディ川崎」や「エヴァンゲリオン」の表記を動かせないのは当然です。最初からカタカナ語として固まっているもの以外にも、例えば作曲家のラヴェルやヴェルディといった人名には「ヴ」の方がなじむというのは分かる気もします。毎日新聞でも俳優の名前などは「ヴ」がほぼフリーパスで通っているようです。確かに「ヴィゴ・モーテンセン」を「ビゴ」とは書きにくい。
「ヴ」は時に厄介者にも
気になるのは3分の1超の人がほぼ『ヴ』を使う」としていることですが、上の例によれば「カンヴァス」「サーヴィス」「ヴァージョン」となるのでしょうか。サバイバルは「サヴァイヴァル」、ベルベットは「ヴェルヴェット」、バルブ(弁)は「ヴァルヴ」になるのか、と思うとなかなか大変です。字数も増えますし。
ツイッターのコメントでは、アンケートの選択肢に「Bでつづる語も、意地でも『ヴ』で表記する」を加えてほしい、というコメントも。意地でもかどうかは知りませんが、仕事の外で「グローヴァル」という表記を見たことがあります。手袋的?ではないですよね。字数を節約し、なおかつ誤りを予防するためにも、一般語にはバ行の使用をお勧めするところです。
(2019年04月19日)
先ごろ、世界から「ヴ」が消えるというのが話題になりました。もっとも「ヴ」が消えてなくなるわけではなく、外務省の表記で「ヴ」を使用する国名がなくなる、というお話です。「カーボヴェルデ」が「カーボベルデ」に、セントクリストファー・ネーヴィス」が「セントクリストファー・ネービス」ということに。かつては「ヴィエトナム(ベトナム)」「ヴェネズエラ(ベネズエラ)」などもありましたが、広く使われている表記に合わせる形で「ヴ」の使用は減り、今回で国名においてはゼロになりました。
毎日新聞では基本的に「ヴ」を使わず、バビブベボで表記します。日本語にもともと「V」の音はなかったため、日本語として外来語を発音する時、基本的にはバ行と区別されないという理由からです。また、日本語で表記する際にいちいち原語のつづりを参照しなければならないというのも問題があるでしょう。
自分は区別できているから「ヴ」を使う、という人もあるかもしれません。もちろん上に記したのは一つの考え方に過ぎないのですが、例えば「ビジター(visitor)」を「ヴィジター」と書く人があまりいないように、「V」は必ず「ヴ」を使うという人は多くはなさそうです。アンケートの結果はどうなるでしょうか。
(2019年04月01日)