「トレペ」という略語が何を指すかについて伺いました。
目次
「トレーシングペーパーのこと」が7割
「トレペ」はいったい何のこと? |
トイレットペーパーのこと 12.1% |
トレーシングペーパーのこと 72% |
上のいずれも指す 5.9% |
何のことか分からない 10% |
「トレペ」は「トレーシングペーパー」のことだとする人が7割に達しました。「トイレットペーパー」を指すとする人は全体の2割にも届かず。この結果から見るに、毎日新聞のニュースサイトで一時、トイレットペーパーのこととして「トレペ」の見出しが付いたのは不適切だったと言わなければなりません。
見出しは「トレペ」→「トイレ紙」に
ニュースサイトでは当初、次のような見出しになっていました。
出題者はこれを自宅のPCでたまたま見たのですが、「大丈夫なのかな?」と気になりました。トイレットペーパーとして「トレペ」の呼称を聞いたことはありましたが、一般に浸透した言い方かどうかは心もとなかったからです。トレーシングペーパーのことを「トレペ」と言うはずでもあり、分かりづらい見出しに見えました。
とはいえ会社に急いで連絡するほどのことではないかと、しばらく様子を見ることにしましたが、しばらく後に見出しは変更されていました。
社内でも疑問の声が出たのでしょう。カタカナ語の一部だけを漢字に置き換えるというのは、「メジャーリーグ」を「大リーグ」に、「アジア・カップ」を「アジア杯」にするように、新聞の見出しではよくやることです。トイレットペーパーが「トイレ紙」になるのは比較的理解しやすいのではないでしょうか。
「ト(イ)レ+ぺ」は変則的
カタカナ語から略語を作る場合に、言葉の部分を切り取って使うというのはよくあることではあります。複合語の場合は「セクシュアル・ハラスメント→セクハラ」「スターティング・メンバー→スタメン」のように、語の頭を2文字ずつ取って4文字の言葉にする例が多く見られます。ただし、後の語の2文字目が長音の場合には「ミスター・ドーナツ→ミスド」のように長音を省略する場合も見られます。
しかし、「トイレットペーパー→トレペ」のように、頭の語の文字を一部飛ばすような例はあまり見られません。国際交流基金「世界の日本語教育」8号の日比谷潤子さんの論文「複合語短縮」でも、そのような例は採録されていません。例外的な造語法であり、多くの人にとってなじみにくい形だと言えるでしょう。
日常的には略さないのがおすすめ
トイレットペーパー騒動は驚いたことに外国でも発生したようで、インターネットではいまだにニュースが見られます。ただし「トレペ」を使うのは少数派で、略語としては「トイペ」が伸長しつつあるようです。もっとも毎日新聞では、この「トイペ」という語も過去の使用例は1件のみ。それも外部筆者によるもので、略語として使用するのはためらわれます。日常的には略語を使う理由もないはずなので、略さずに使うのがよいでしょうし、せいぜい「トイレの紙」とするのが自然ではないでしょうか。
ところで「トレペ」についてはツイッターで「トレーニングペーパーの略だ」という声もいただきました。出題者は知りませんでしたが、トレーニングペーパーは教育社の教材の名称で、「トレペ」という略称も以前から使われていたようです。もし選択肢に含めていたなら、どれほどの回答を集めることになったでしょうか。
(2020年03月24日)
毎日新聞のニュースサイトで、記事見出しの一覧の中に「トレペ『問題起きていない』」というものがありました。首相の記者会見の内容を報じる記事です。見出しの内容に当たるくだりは「トイレットペーパーに関して『(中略)サプライチェーン(部品供給網)の問題は全く起きていない』と指摘」というものでした。
要するに「トレペ」とは「トイレットペーパー」のことを指しているわけですが、略語としてあまり筋がよくない印象を受けます。どちらかといえば「トイペ」になるのでは。試みに検索サイトのGoogleで「トレペ」を検索すると、一番上に挙がるのは通販サイトAmazonの「トレーシングペーパー通販」の広告で、以下もトレーシングペーパーに関するサイトが並びます。
もっとも、出題者もトレーシングペーパーを「トレペ」と略すことを知ってはいましたが、さほどなじみのある略語ではありません。しかしトイレットペーパーの略語としてはなおさらです。いかにトイレ用の紙やティッシュの品薄・買い占めが話題になっているとはいえ、このような見出しを付けてもよかったのかどうか。皆さんへの浸透度を伺って今後の参考にしたいと思います。
(2020年03月05日)