「女の気持ち、降ろす(印刷に回す)のちょっと待ってー」
朝刊製作作業がピークに差し掛かった午後9時前の大阪本社編集局に、同僚の声が響きました。生活面に組み込まれていた読者コラム「女の気持ち」の投稿者の住所が「大阪府伊丹市」となっていたのです。
伊丹市があるのは兵庫県。校閲を含む関係各部からは既にOKが出ていましたが、同僚が念のため再度点検していて発見、土壇場で間違いを防ぎました。
数年前の話ですが、当時の出稿部の担当者に事情を尋ねたところ、「投稿者が自分の住所を伊丹市からしか書いていなかったので、こちらで都道府県名を付け加えたのだが、勘違いしていた」と平身低頭。
「大阪府伊丹市」はその後も忘れた頃に登場し、悩まされるのですが、原因として推測できるのは伊丹市と大阪府池田市、豊中市にまたがる「伊丹空港」の存在。正式名は「大阪空港」ですが、大半の用地が伊丹市内にあるためか昔から伊丹空港とも呼ばれ、「伊丹イコール大阪」の構図を作り出す一因となっているのかもしれません。
地名にまつわる間違えやすいパターンはいくつかありますが、このように思い込みやうろ覚えなどによって他府県に“編入”されてしまうのもその一例。特に、県境近くに位置する市が混同されやすい傾向にあるようで、これまでも鳥取県米子市や境港市が島根県に、三重県熊野市が和歌山県に組み入れられるケースなどを目にしてきました。
人名と並んで、一旦誤ると読者からの信頼を大きく損なってしまうのが地名。もし冒頭のような間違いがスルーし、投稿者本人の元へ住所違いの新聞が届く事態となっては大変です。普段から見聞きしている身近な地名や誰もがよく知っている地名でも、どこに落とし穴が潜んでいるか分かりません。
【宇治敏行】