昨年12月、「三省堂辞書を編む人が選ぶ今年の新語」と同時開催された「国語辞典ナイト」のリポート後編です。これまでとちょっと趣向を変えた個々の「語」に注目するテーマで、それぞれ個性的なプレゼンが続きます。

2025年12月のイベント「三省堂辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2025』meets 国語辞典ナイト」の後半、国語辞典ナイトをリポートする後編です。
今回のテーマに沿って、思い思いの「へんな言葉ずかん」が発表されていきます。
【平山泉】
「国語辞典」ナイトとは
2014年11月から不定期に開かれている国語辞典を楽しむイベント。国語辞典を引き比べたり、まじめに語ったりする一方、時に厳しく突っ込みを入れたり、からかったりすることもあるが、結局は会場に辞書愛をあふれ返らせて終わる。辞書を使って遊ぶ多彩なゲームも魅力。
レギュラーメンバーは三省堂国語辞典(三国)編集委員の飯間浩明さん、ライターの西村まさゆきさん、「辞書ソムリエ」で校閲者の見坊行徳さん、「辞書コレクター」で校閲者の稲川智樹さんの4人。18年の第7回には毎日新聞校閲センターの平山泉がゲストで登壇した。
見坊さん「両面語図鑑」
見坊さんが発表するのは「両面語図鑑」。
両面語? 「一語の中に二面的な意味・用法があることば」と見坊さんが定義したものだそうです。
例えば、解釈の揺れで変わってきてしまう……

「天地無用」。「上下を逆さまにするな」が正しいといわれますが、「上下を気にしないでよい」と受け取られてトラブルになることがあります。
そこで、見坊さんは昔の辞書、それも和英辞典を引きます。なぜなら「当時の現代語」がわかるからなのだそうです。

「天地」を引くと「天地する」という動詞で載っており、上下を引っ繰り返すという説明が書かれています。「無用」はどうかというと「禁止の場合」とあって、「通行無用」などの用例もありますが「濡らすこと堅く無用」という用例もあって、まさにこれは「禁止」の意味。
「雇用者」も挙げられました。ああ、これは新聞記事を校閲していても困っているところで、雇用する者、雇用される者、どちらにも使われます。見坊さんが国立国会図書館デジタルコレクションで調べてみたところ、雇用する者が8件、雇用される者が9件と、同じくらいだったとのこと。見坊さんは「『雇用者』はもうやめたほうがいい。100年以上、二つの顔で使われてきた」と述べました。
今度は

「すこぶる」に両面性が? 古く平安や室町ごろまでは「ちょっと」という意味で使われていたというのです。へーえ。日本国語大辞典には「『すこし』『すくなし』などの語根に、『ひたぶる』などと同じ接尾語のついたものか」と書いてあるとのことで、「『いくらか、ある程度』の意味が『かなり、相当』の意味に強化された」とも。
確かに、程度を表す語が逆の方向に使われるようになったりしますが、「すこぶる」もそうだったとは。さらに見坊さんは

先ほど言及された「ちょっと」についても両方使うと言い、英語にもあることだと付け加えました。
勉強になるなあ……。
まだまだあります。

このイラストは何を意味しているのでしょう?
「クリップ」と答えを言われてもぴんときません。左が挟んで留めるものということはわかるのですが、右は……「ビデオクリップとか画像処理でクリッピングというと『切る』という意味」(見坊さん)。まるで逆です。なぜこんなことになったのか。
なんとまあ、留めるほうは古英語、切るほうは古期ノルド語由来で、それが英語の中で一つになったのだそうです。
勉強になるなあ……。
英語でいうと、「inflammable」が「可燃性の」と「不燃性の」という逆の意味で捉えられてしまうそうです。「in」は「en」と同じく「……させる」意味で、inflammableは「可燃性の」という語なのだけれど、「in」はinvisible(見えない)など否定の意味でも使われるため、逆の「不燃性の」に誤解されるのだそうです。危険でもあるので使わないようにしようと英語圏では言われているそうです。
勉強になるなあ……。
いわゆる誤用として校閲記者にはおなじみの「役不足」。

西村さんは「え?」という反応ですが、稲川さん「わかりますね」、飯間さん「誤用」。
そうなんですよねえ。「自分では力不足」のような気持ちで「役不足で……」と謙遜のつもりで言っても、本来の意味で捉えている人は「実力のある俺さまには役が軽すぎて不満」と言われたように感じてしまいます。
さすが校閲者の見坊さん、非常に勉強になる「両面語図鑑」でした。
「『結構です』もOKだかどうかわからない。『大丈夫』も。両面語はなくならないでしょうね」(飯間さん)
「意外と多いですね」(西村さん)
「時間の許す限り、いくらでも盛り込めます」と見坊さんが言ったところで、すかさず「時間がないんです」と司会の今野さん。
はいはい、急いで西村さん。
西村さん「AIに挿絵を描いてもらう2025」

おお、お得意の挿絵ネタ!
しかも、思い出すだけで笑える23年の国語辞典ナイト! 人工知能(AI)が国語辞典の語釈を読み込んで絵に描くと――というものです。
↓こちらで振り返ってみてください。
“国語辞典ナイツ”は生成AIをも笑い飛ばす!――1年ぶりの国語辞典ナイト
(幸い、↑のリポートでは割愛していたものが今回紹介されたので、ほとんど重複なしで読んでいただけます!)
結構散々だった記憶がありますが、あれから2年、AIの進化やいかに……。
「辞書の挿絵といえば、七福神ですね」(西村さん)。前回、AIはいきなり「コンテンツポリシー違反」だとかなんとか、へりくつを言って描くことを拒否していましたねえ。なんとか描かせたところ、ド派手な絵でした(23年リポート参照)が……今回依頼すると、

ん、あたぼうよ? すると西村さんからお断りが。

チャットGPTがべらんめえ調に……みんな笑ってるよー。
それはそうと、出てきたのは

いきなり三つも!と驚いたところ、AIが描いたのではなく、どこかから引っ張ってきたものらしい。「ズルすんな!」と西村さんが辞書の語釈で描くよう指示すると
「お安い御用よ、べらんめえ!」
とAI。
お安いご用の割にはこまごま確認してきたようですが、いい感じにそれらしいものを描いてきたのでびっくり。

しかし、よく見ると、布袋みたいなのが2人いて、毘沙門天、寿老人らしきものが見当たらない。

描き直させますが、「正解」に近づけるにも苦労します。

元気に群像が苦手だということを申告するAIに理解を示した西村さん。次のお題はイチゴにしました。
イチゴは三国の語釈「赤い、小形のくだもの。やわらかくて、表面にぶつぶつがある。すっぱくてあまく、ミルクの味と合う」から前回はなぞの果物が出現しましたが、今回は、この㊧。

「おおっ」と会場がどよめきます。カピバラも

「子供が泣くやつ」と西村さんに言われていた㊨から進化した㊧を描いてきました。
「正解すると腹立つんですよね」(西村さん)
「面白いのが見たいのに」(稲川さん)
確かに……。
次に「細長くて、ぬらぬらしているさかなの名。あぶらが強く、かば焼きなどにして食べる」(これを西村さんは三国8版の語釈としてスライドに表示しましたが、8版でなく7版の語釈でした。8版はちょっと違います)で描かせたウナギは

あー、そうだった、まるでサンマのような絵を描いていました。ここから今回は

と、ちゃんとウナギに。つまらん……。
オムレツもひどかったんだった。

語釈が「木の葉の形に」だからってカエデにしてしまったのが前回㊨。
今回のAIの絵に、あまりにつまらなくなった西村さんはAIに「2023年ごろのトンチンカンな絵は描いてくれないのか」と問いかけ、あえて2年前のレベルで描くなんてことを要求。

AIが無理にトンチンカンにしている……「天然おばかキャラ」にはかなわない。
挿絵にしにくい「動作」などもありましたね。「ため息」を描いてきた前回は

怖い……それが、今回は

なんかよくわからないけど、笑えはしません。
国語辞典の語釈で話題にされまくる「右」。このリポート冒頭の写真を見てください。右側の謎の図が23年のもので、左側の「よこ」「右」「左」と書いた図が今回です。うーーーーむ。23年は謎すぎて、前衛芸術?にも見えましたが、今回は一応語釈を図にした感はありました。西村さんは「(23年の)勢いで乗り切ろうとしていたほうが人間味があった」と寂しそうでした。
気を取り直して(?)問題の「ロンパース」。前回、三国の語釈を示すと「コンテンツポリシー違反」として拒否したのに、新明解国語辞典の語釈ではいい感じに描いたという……(23年リポート参照)。2年たって三国への姿勢は変わったのか?

筆者もつい「つまんねー」と口から出てしまいました。
西村さんは「つまんねーと感じてしまう人の『機微』をAIはくみとってくれるようになるのか」と述べて締めくくりました。
心地よく笑い疲れたところで、全員のプレゼン終了です。
「へんな言葉ずかん」というテーマで4人それぞれの「ずかん」が発表されましたが、「みなさんも自家製で『ずかん』をつくるとよいのでは」と見坊さん。つくるかどうかは別としても、ことばの楽しみ方のヒントになったかなと思います。
稲川さんも「町なかで用例採集したり、気になった言葉の写真を撮ったりして楽しんでほしいですね」。
「ずっとやってる」(飯間さん)
「『今年の新語』も家に帰ってどう料理してやろうかな……酒が飲めるな」(稲川さん)
「そこが怖い」(飯間さん)
飯間さんは「国語辞典は料理の仕方がいくらでもあって、小さな辞書でも何万語と載っているからネタはいくらでもあります。これからも、ほかではまねのできない、皆さんが驚くようなイベントをやっていきます」とハードルを上げてしまいました。
西村さんは「皆さん、ちゃんとテーマに合っていて……(自分は)変化球すぎましたかね」(西村さん)。西村さんの良さは、その変化球です!
西村さんが2年前にAIに描かせていたことと今回描いたものとを比べることができただけでも、資料的に価値があったと飯間さんが話しました。また2年後に試したら「七福神が描けるようになるかな」(西村さん)と期待(?)しつつイベントを終えました。

