出勤して、その日最初に読んだのが訂正記事の原稿。「栃木県那珂川町の人口が『約5万人』とあるのは『約1万9000人』の誤り」。いきなり叱られたようなものです。この数字、確かめたはずなのですが……。
もう30年近く前、入社早々の私に電話速記者の経験がある先輩からの「教訓」。「札幌からの電話の声、『……ムロ』としか聞こえないから、あっ『根室』だって書き取ったら、本当は『芽室』。思い込みは間違えのもとだよ」。電話の声を速記者というプロの耳が聞き取って文字の原稿にする。それを基に紙面を点検する私たちに「聞き違い」に気付けというのは、ほとんど不可能です。根室と芽室、その距離約250キロ。
近くも近く、同じ町内であるからこその間違いもあります。東京スカイツリー完工間近の東京都墨田区には、大相撲で有名な両国国技館のそばに、関東大震災や東京大空襲の犠牲者を追悼する碑が建つ横網町公園があります。町名も「横網」。この字をご覧になって、誤字の「解答」がぴんときたでしょう。国技館→大相撲→横綱の連想から、目は「よこあみ」と読んでいるのに、頭に「よこづな」が浮かび、「YOKOZUNA」と入力してしまうのでしょう。その結果、年に一度ぐらい間違って紙面化されてしまいます。私はひそかに「誤字の横綱」と呼んで「引退」を待ちますが、「うっちゃり」負けで悔しい思いをします。国技館と横網町公園、目と鼻の距離です。
さて冒頭の「訂正」、実は単純な数字の誤りが原因ではないらしいのです。私も「那珂川町」役場のホームページで人口を調べました。「約5万人」と確認--したと思ったのは、同じ「那珂川町」でも、福岡県那珂川町。二つの那珂川町の間の距離1200キロ。同じ町内でも、遠く離れた二つの町でも、誤りに遠近軽重はありません。今回は二つの那珂川町の皆さん、ごめんなさい。
【岸田真人】