
「渋滞」という言葉の新しい使い方について伺いました。
目次
意味の分かる人が大多数
| 推しが最高過ぎ。可愛いが「渋滞」してる――この言い方、どうでしょうか。 |
| 知っている。意味も分かる 68.8% |
| 知らないが、意味は分かる 16% |
| 見たことはあるが、意味はよく分からない 7.6% |
| 見たこともないし、意味も分からない 7.6% |
「可愛いが渋滞している」のような「渋滞」の使い方について、3分の2の人は「知っている。意味も分かる」と答えました。他の回答も合わせると意味の分かる人が8割を超えています。近年SNSなどで見られるようになった用法ですが、意外に広く浸透しているようです。
「俗用」として掲載する辞書も
「渋滞」というのは物事がはかどらず滞ることを指す言葉ですが、数十年前からはもっぱら交通渋滞、すなわち自動車の流れが滞ることを指して使われる言葉になっています。しかし更に新しい用法が加わってきました。三省堂国語辞典(8版、2021年発売)の「渋滞」の項目を引きます。
①自動車がつかえ(て進まなくな)ること。「交通渋滞・一キロの渋滞」②〔文〕はかどらないで、滞ること。「事務が渋滞する」③〔俗〕受け止めきれないほど〈多い/強い〉こと。「かわいさが渋滞してる」

2013年発売の7版では、③の項目はありませんでした。ちなみに①と②も一つの項目で「とどこおること」として、交通渋滞もその一例とされていましたが、8版では現在は交通渋滞の意が主であるとして、説明を切り分けたようです。
③は今回の質問文に挙げたような例を説明するものです。「俗用」とされるのは、これがもっぱらSNSのような場面で使われるものだからでしょう。しかし、今回のアンケートでは3分の2が「知っているし、意味も分かる」を選択しました。思ったよりも広まっている、というのが出題者の率直な感想です。
また、「知らないが、意味は分かる」とした人が、「意味が分からない」とする二つの選択肢の合計よりも多いというのも意外でした。従来の使い方の転用として、意外になじみやすい用法なのかもしれません。
どこで「渋滞」しているのか
ところで質問文では「可愛いが渋滞してる」と書きました。これは対象(推し)の「可愛い」要素が受け止めきれないほどあふれていると同時に、自分の中で対象に対して「可愛い」と感じる気持ちがとどめようもなくあふれてくる、といった感じでしょうか。回答から見られる解説で引いた「トキメキが大渋滞!」のような用法も、自分の中の「トキメキ」が殺到してつっかえているということでしょう。
一方、三省堂国語辞典の用例は「かわいさが渋滞してる」です。この「かわいさ」というのはどちらかというと自分の外側にあるもののようです。もちろんどちらの用法も見かけるものですが、使い方には幅が見られます。
最高「過ぎ」は問題あり?
X(ツイッター)では質問文の「最高過ぎ」に対する反応もありました。
紙媒体やウェブメディアなどで使う書き言葉の場合、「最高『過ぎ』」は明らかな間違い(一般的に、最上級に「過ぎ」がつくのはおかしい)なので削りますが、個人のブログや話し言葉ならかまわないと思っています。
こうした「過ぎる」も使い方の変わりつつある語です。また三省堂国語辞典の8版から引くと、「過ぎる」の項目の説明③として「〔俗〕…の性質を強く持つ。…と強く感じる。『天使過ぎる〔=非常にかわいい〕・役人過ぎる対応・イベントに行きたかった過ぎる〔=行けずにとても残念だ〕』」とあり、さらに「二〇一〇年代には③のように本来は程度をあらわさない語句につく例も増えた」と補足します。
要するに「最高過ぎる」も、「最高」であるということを強く打ち出すための表現で、比較や程度を表すものではないということになります。Xでの言及は非常にもっともで、規範的な表現とは言えないので仮に新聞紙面に出てきたなら修正を求めることになると思いますが、個人の表現としては特に目くじら立てるようなものではないと考えます。
◇
本年も「毎日ことばplus」のアンケートにお付き合いいただきありがとうございました。皆さまの回答からいつも学ばせていただいております。2026年もよろしくお願い申し上げます。
(2025年12月29日)
SNSなどで見かけることがある「渋滞」の用法です。「トキメキが大渋滞」というフレーズを某歌劇団のポスターでも目にしました。何と言いましょう、感情が自分の処理能力を超えて中でつかえて訳がわからないという感じでしょうか。
さすがに国語辞典には載せていないだろうな……と思ったら三省堂国語辞典にはありました。8版で「じゅうたい」の項目の③として「〔俗〕受け止めきれないほど〈多い/強い〉こと。『かわいさが渋滞してる』」という説明が載っています。新語や俗用を機敏に載せるという点で、いかにも三国らしいと感じます。
三省堂のオタク用語辞典「大限界」には掲載がなく、専門的というよりは広く俗用されるものかもしれません。とはいえまだまだ見慣れない人も多いと思います。皆さんはいかがでしょうか。質問文では「最高過ぎ」も問題だと感じる人もありそうですが、それはまた別の機会に。
(2025年12月15日)
