「感染する」という言葉の使い方について伺いました。
目次
「ウイルスに感染する」という形が多数派
「ウイルスが子供に感染した」――この言い方、どうですか? |
問題ない 8.7% |
違和感はあるが許容範囲 16.6% |
「子供がウイルスに感染した」とする 74.8% |
「ウイルスが感染する」という形はおかしい、という人が4分の3を占めました。新型コロナウイルス報道が続く中で、「入院患者が感染した」「△人はいずれも国外で感染した」のような使い方をよく見ることも、選択にあたって影響したかもしれません。一方で「感染する」という形を取らない場合の「感染」の使い方は、比較的自由度が高いようです。
「感染」はヒトが主、「伝染」は病気側が主体
日本国語大辞典(2版)が「感染」の項目で「病原体が、体内に侵入すること。病気がうつること。伝染」と説明するように、辞書類では「感染」と「伝染」を類義語とするものが少なくありません。「感染症」と「伝染病」の重なる部分が大きいように、「感染」と「伝染」は意味が重なるのですが、実際の使い方には違いも見られます。
例えば角川の類語新辞典は二つを並べて「伝染 病気が―する」「感染 結核に―する」と例示します。病気が主語になるか否かを簡潔に伝えており、分かりやすいと思います。
日国も上記の説明の後、「語誌」として「類義の『伝染』は病気を主とし、『病気が人に』の形が基本であるのに対して、『感染』は人に重点を置き、『人が病気に』が基本の言い方」と説明します。「病気に」というところを「病原体に」と置き換えても問題ないでしょう。従って、アンケートで多くの人が選んだように「子供がウイルスに感染した」とするのが「基本の言い方」と考えられます。
「ウイルスの感染拡大」が増殖中
しかし、回答から見られる解説でも触れましたが、今般の問題に関しては「新型コロナウイルスの感染拡大」というフレーズを頻繁に見かけます。「ウイルス『への』感染拡大」でもなく、「ウイルス『による』感染拡大」でもありません。ウイルスの流行範囲が拡大している、感染者が増えているというのは伝わりますが、「ウイルスの感染拡大」と言った場合、「感染」は「拡大」とともにウイルスを主語とするように見えます。
「ウイルスの感染拡大」という言い回しを毎日新聞の記事データベースで検索すると、1987年以降の記事(東京本社、地域面除く)で859件がヒットしますが、そのうち「コロナ」を含まないのは8件のみ。30年来経験のない事態に際し、これまで見かけなかった言い回しが爆発的に増殖しています。
毎日新聞のみならず、共同通信の記事データベースを見ても、同様の傾向が見て取れます。本来なら「(ヒトの)ウイルス感染の拡大」と言う方が正確なのかもしれませんが、この言い方はほとんど見ません。「感染する」という動詞の形で使うのでない限り、「ウイルス」と「感染」の語のつながり(コロケーション)は、曖昧でも許容されているようです。
一般には「ヒトがウイルスに感染する」で
ともあれ、質問で示したような「ヒトにウイルスが感染した」という形は、あまり使われないことは間違いありません。一般的には「ヒトがウイルスに感染した」という形で使用するのがよいでしょう。一方で「ウイルスの感染拡大」のような形は誤解を招くものでない限り許容されると考えますが、早く事態が好転して、こうした言い回しが消えてくれることを何より望みます。
(2020年03月27日)
まずは「(人が)ウイルスに感染する」という形が穏当な使い方と考えます。しかし、「感染」も使い方に悩む場面がある言葉です。
ウイルスなどによる「はやり病」は、今は「感染症」と呼ばれることが多いものですが、以前は一般に「伝染病」が多く使われていました。言葉の定義としては「人から人へうつるもの」が「伝染病」と呼ばれ、病原体が外から体内に入ることで起きる病気の総称として「感染症」が使われていますが、同じように使われることも多い言葉です。
それなら「伝染」と「感染」も同じように使えるのか、というとそうでもありません。「感染」は「病気がうつること。『コレラに―する』」(大辞林4版)、「伝染」は「病原体が、ある個体から他の個体に侵入し、病気を引き起こすこと」(同)と説明されます。要は、主体が人にあるのか、病気の側にあるのかということです。
ですから、「感染」の場合は人が主体になるはずで、「子供がウイルスに感染した」とする方が自然です。しかし今般の新型コロナウイルスの問題でも「ウイルスの感染拡大」のような言い方が頻々と登場し、主体がどこにあるのか分からなくなる場面があるようです。「伝染」の用法と混じっている部分があるのかもしれません。
(2020年03月09日)