「ぜひ……してはいかがでしょうか」という言い方をどう思うか伺いました。
目次
「おかしい」が過半数占める
「ぜひ一度ご覧になってみてはいかがでしょうか」と言われたらどう感じますか? |
必ず見てほしいが、少し控えめに言っていると理解できる 19.9% |
普通の呼び掛けを少し強めているものと理解できる 27.8% |
「ぜひ」なのに「いかがでしょうか」はおかしい 52.3% |
「ぜひ」を少し強調する表現だと受け止める人は4分の1程度、「いかがでしょうか」に控えめな姿勢を読み取る人は5分の1程度でした。「おかしい」と判断した人が過半数で、出題者同様に違和感を覚える人が多そうです。
「ぜひ」は「強い希望」の表現
辞書の用例を見てみると、「ぜひ」の後ろに続くのは「招待したい/お願いします/においでいただきたい」(三省堂国語辞典7版)、「参加して下さい」(広辞苑7版)、「読みたまえ」(現代国語例解辞典5版)など。大辞泉2版の説明を引くと「どんな困難も乗り越えて実行しようとするさま」「心をこめて、強く願うさま」に大別できるでしょうか。つまりは「そうしたい」「そうしてほしい」と強く思う場面で使うはずです。
実際の使われ方についての解説が充実している新明解国語辞典8版には「他人はどうあれ、自分の気持としてはその事の実現を強く希望する様子」とあります。ならばやはり「いかがでしょうか」といった他人への投げ掛けは、「ぜひ」とは相性がよくないでしょう。
一方で新明解は「今日の会合に私も参加していいでしょうか」「ぜひ参加してください」という例を挙げて、「相手の気持を忖度(そんたく)して儀礼的に『ぜひ……てください』などの形でそれを認める言い方になることがある」とも説明しています。相手が参加したがっていることをおもんぱかり、(本心からでなくとも)「ぜひ」を使うこともある、というわけです。ここでは「他人はどうあれ……」どころか「忖度」が入り込んでいます。
こういうコミュニケーションがままある日本人ですから、逆に「必ず見てもらいたい」と思っていても、相手に配慮して「いかがでしょうか」と表現を弱めてしまいがちなのかもしれません。
控えめにするのが逆効果にも
ツイッターには、発信する側、受け取る側双方の立場からコメントを頂きました。押しつけがましくならないように「ぜひご一読いただけたら幸いです」と自分の作品を宣伝してしまうという方がいる一方、30年以上前から「ぜひ……いかがでしょうか」を耳にするという方は、この表現に強い違和感があるそうです。
アンケートの結果を改めて見てみると、話者の遠慮がちな姿勢を理解してくれる人は2割。やや強い呼び掛けと受け取ってくれる人は3割弱。対して「おかしい」と感じる人は5割。「ぜひ……いかがでしょうか」によって、控えめながらもやや強くプッシュするという発信側の狙いは、残念ながら達成されないことの方が多そうです。
「オススメ」ならば堂々と
最近では「……させていただきます」という表現の乱発が話題になりました。話す側としては相手を大切にしようとする気持ちが示せるため便利なのかもしれませんが、「相手に許可をもらうような場面でもないのに使うのはおかしい」「過剰にへりくだっていて不愉快だ」などの批判もあります。このあたりの話者と聞き手の関係は、今回の「ぜひ……いかがでしょうか」と似ているようにも思えます。
というわけで、自分のオススメについては「ぜひご覧になってください」と、ぜひ堂々と推薦してはいかが……ではなく、ぜひ堂々と推薦してください。アンケート結果を見ても、実はその方が違和感を与えることは少ないはずです。
(2021年09月24日)
東京オリンピック・パラリンピックがほとんど無観客で行われると決まる前。「ぜひ会場に来て、生で競技を見てはいかがでしょう」と呼び掛ける原稿がありました。
「ぜひ」というのは「是が非でも」という意味ですから、その後は「見てください」などとなるのが自然で、「いかがでしょうか」ではどうも弱く感じます。明鏡国語辞典3版で「ぜひ」を引くと、「要望や意志などを表す文末表現と呼応する。『ぜひ、…てはいかがでしょうか』などは、誤り」と断じています。
しかしテレビを見ていると、地域の名物を「ぜひ召し上がってみてはいかがでしょうか」、便利アイテムを「ぜひ試してみてはいかがでしょうか」。新聞にも「ぜひウオーキングに取り組んでみてはいかがでしょう」などという例が見つかります。
本当は強くプッシュしたいんだけど「ぜひ……してください」と言い切るのは押しつけがましい気がしてしまうのか。それとも「ぜひ」の意味をそれほど意識せずに使っているのか。気持ちはわからなくもありませんが、受け取る側はどう感じるでしょうか。
(2021年09月06日)