非核化の「行程表」と「工程表」、どちらを使うか伺いました。
目次
ほぼ半々という結果に
北朝鮮非核化の手順を定めるものは…… |
工程表 42.6% |
行程表 51.9% |
上のどちらでもよい 5.4% |
「行程表」がやや優勢ですがほぼ半々という結果でした。
実は2017年の新聞用語懇談会でも、「行程表」「工程表」の使い分けが議論になりましたが、明確な結論は出ませんでした。専門家が考えてもまとまらないものを質問するのは少々気が引けましたが、やはり意見が分かれたことにほっとしました。
行程表は「道のり」示す
新聞・通信社の用語集では、工程は「作業の進行する順序・過程」、行程は「目的地までの道のり、日程」といった使い分けを定めている社がほとんど。用例では、工程表を「一般用語」、行程表を「ロードマップ」と説明する社もありました。
北朝鮮の非核化の手順も「ロードマップ」といわれますが、この言葉をよく目にするようになったのは、2003年の「中東和平へのロードマップ」から。当時の毎日新聞の注釈には「指針」「道程地図」のほか「行程表」もありました。和平という目的地があり、そこに至る道のりになぞらえたものですから理解しやすいでしょう。その後、在日米軍再編、温室効果ガス削減などについても「ロードマップ(行程表)」と書かれ、「工程表」は見つかりません。
原発事故で「工程表」が頻出
流れを変えたのは11年の福島第1原発事故。廃炉に向けた東京電力の「中長期ロードマップ」を「工程表」と表記しています。廃炉完了への道のりという意味で「行程表」でもおかしくありませんが、重機を使っての土木工事が含まれるため「行程」より「工程」がしっくりきます。実際に17年の改定版ロードマップを見ると「工程・作業内容は、現状のリスクレベルや適切な実施時期等を考慮して策定した」と書かれ、汚染水対策や燃料取り出しなどの時期を示した表に「主要な目標工程」と見出しが付いています。それらをまとめたものだから「工程表」。単純に「ロードマップなら行程表」とはいかない場面もあるわけです。
以前からあるのは「工程表」
また言葉としては「工程表」の方が伝統がありそうです。01年の日本国語大辞典2版では「工程表」の見出し語はあっても「行程表」はありません。06年の大辞林3版には、1995年の2版になかった「行程表」の項が加わりました(「→ロードマップ」と参照を促しているだけですが)。毎日新聞の過去記事を検索してみても、確認できる「行程表」の最も古い例は98年。「ロードマップ」が頻繁に登場するようになったのに合わせ、対応する日本語として「行程表」が使われるようになってきた観があります。
その意味で「行程表」は新しい言い方で「工程表」表記が基本だ、という考え方もあるでしょう。実際に工事をするわけではなくても、目指すゴールを完成と捉え、そこに至る段階を各作業工程になぞらえて「工程表」というのはおかしくありません。最近の毎日新聞では、北方領土での日露経済活動に向けたロードマップやiPS細胞の実用化に向けたロードマップについても「工程表」が使われました。
入り交じらないようにしたい
出題しておいて何ですが、結局どちらにも理があり決めがたいという事情ばかり浮かび上がりました。ともかくアンケートからは、比較的最近登場した「行程表」が過半数を占めるほどに認知されていることは分かりました。新聞紙面ではひとまず、同一の話題の中ではなるべく表記が分かれないように気をつけるしかなさそうです。
(2019年03月26日)
2月末に2度目の米朝首脳会談が行われました。今後北朝鮮の非核化が進むか注目されますが、関連した記事によく出てくるのが「非核化のコウテイ表策定が必要だ」といった話。どちらの字を当てるべきかいつも悩みます。
毎日新聞の2018年の記事を検索してみると、北朝鮮非核化の文脈では「工程表」「行程表」いずれも10件と真っ二つ。このことからも判断が難しいことが分かります。
辞書を引くと、工程表は「仕事や工事を進める手順を定めた表」、行程表は「いつまでに何をやる、という目標・方法を定めた表。ロードマップ」(三省堂国語辞典7版)。かなり意味が近く、どちらを使ってもよさそうです。強いていえば「ロードマップ」が注目点でしょうか。英語ではroadmap for North Korea’s denuclearization(北朝鮮非核化へのロードマップ)などと表現されており、それに合わせれば「行程表」を選びたくなります。
決定的な理由は思い浮かばず、結局「どちらでもよい」に落ち着きそうな気もしてしまいますが、アンケートではっきりした偏りが見られるでしょうか。
(2019年03月07日)