「リスキリング」という言葉について伺いました。
目次
「分からない」が4割超す
近ごろ目にする「リスキリング」という言葉、意味はわかりますか? |
十分理解できる 11% |
何となく分かる。説明は不要 15% |
何となく分かるが説明が欲しい 30.6% |
分からない。日本語で言い換えてほしい 43.4% |
新聞でも見かけることが増えた「リスキリング」という言葉ですが、最も多かった回答は「分からない。日本語で言い換えてほしい」というものでした。ただし現在言われている「リスキリング」には独特の含意があり、言い換えにも難しさを感じます。
新たな職のため技能を習得すること
回答から見られる解説で、毎日新聞の記事に「リスキリング」という言葉が初めて現れたのは2021年の12月と書きました。その後、この言葉は岸田文雄首相の施政方針(22年10月)にも現れるなど、急に目につくようになってきています。
三省堂の、辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2022」では10位にランキングされています。試しに作られた説明文は以下の通り。
〖reskilling〗社会人が、ある職業に必要とされる技能の習得をあらためて行うこと。特に近年、別の職種に就く場合や同じ職種でもあらたな技能が必要とされる場合に、それらの技能を習得することを指していう語。
職業能力の再開発、学び直しといったところでしょうか。毎日新聞の過去記事でも、よく「リスキリング(学び直し)」のような形で説明が付加されています。
現在はデジタルスキルに限定的
ただし、リスキリングを単に「学び直し」として、職業上のスキルを高めることと考えるのは早計かもしれません。2020年9月に出たリクルートワークス研究所の報告書「リスキリング」には「デジタル時代の人材戦略」という副題があるように、既存の人材がデジタル関連のスキルを身に付けることを、特に指すものと考えられます。同報告書には
近年は特に、社会のデジタライゼーションや企業のデジタル・トランスフォーメーション(以下DX)戦略のなかで新しく生まれた職を得るための職業能力再開発、という文脈に特化して使われることが増えてきた。
とあります。
「近年は」とはどういうことか。同報告書では、世界経済フォーラム(WEF)が2018年1月に出した報告「Towards a Reskilling Revolution」に触れています。デジタル化で消える仕事から失職者を救済するという側面もリスキリングにはあるようですが、リクルートの報告ではさらにWEFの総会(ダボス会議)での宣言として「2030年までに世界で10億人をリスキルする」という目標が示されたことを挙げています(「リスキル」は他動詞としても使う)。
五十路の出題者としては「ああ、よく分からないけれど私もリスキルされちゃうのかな。大変そう」という暗い感想しか浮かびません……。出どころがダボス会議というのもこれまた、お金持ちや大企業にとって都合のよいようにリスキルされてしまうという未来しか想像させない――というのは、むろん出題者の考え方の偏りによるのだと思いますが。
文脈に沿う説明が必須
ともあれ、今回のアンケートで「十分理解できる」など説明不要とした人は4分の1程度にとどまっており、ニュースでの登場頻度の上昇にもかかわらず、使い方は浸透していないと感じました。広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の首脳宣言にも「リスキリング」は登場しており、今後も使われる機会は多いでしょう。文脈を踏まえたうえで、意味の通じるような説明を付けることが欠かせないと考えます。
(2023年06月29日)
「リスキリング」は「より高度なスキルを身につけるための再教育。特に、社会人が、新しい業務のために技術や知識などを学ぶものについていう」(デジタル大辞泉)とのこと。英語の「reskill 高度技術を再教育する」(ランダムハウス英和辞典)の名詞形です。▲毎日新聞での初出は2021年の12月。外部筆者からの寄稿で、「=職業能力の再開発」という説明を付されていました。新聞でもよく見かけるようになったのは、22年10月の岸田文雄首相の所信表明演説に登場してからではないかと思います。そこでは「リスキリング、すなわち、成長分野に移動するための学び直し」としていました。▲もっとも今般いわれる「リスキリング」は単なる学び直しというよりは、社会のデジタル化に対応するスキルの習得に特化して使われているようで、何を持って「分かる」というのかも難しいかもしれませんが……皆さんはこの言葉をどう受け止めているでしょうか。
(2023年06月12日)