「白羽の矢が立つ」という言い回しについて伺いました。
目次
3分の2は「良い意味で使う」
「白羽の矢が立つ」という慣用句、どんな意味で使いますか? |
「特に選抜される」という良い意味で使う 68.1% |
「犠牲者に選ばれる」という悪い意味で使う 14.9% |
上のいずれの意味でも使う 17% |
辞書では「いけにえに選ばれた」しるしとする説明も見られる「白羽の矢が立つ」という慣用句ですが、アンケートでは「特に選抜される」という良い意味で使うとした人が3分の2を占めました。実際の用例でも、悪い意味で使うという場合は現在ではほとんど見られないようです。
辞書は漏れなく「犠牲」を記載
国語辞典は「白羽の矢が立つ」について次のように説明します。
(人身御供(ひとみごくう)を求める神が、その望む少女の住家の屋根に人知れず白羽の矢を立てるという俗説から)
(1)多くのなかから犠牲者として選び出される。白羽が立。
(2)多くのなかから特に指定して選び出される。また、ねらいをつけられる。白羽が立つ。(日本国語大辞典2版)
ある役目のため、多くの中から選び出される。[由来]神につかえる役目に選ばれた、または神へのいけにえに選ばれた少女の家に、白羽の矢が立ったという話から。名誉ある場合にも、犠牲になる場合にも使う。
(三省堂国語辞典8版)
他の辞書も同様で、人身御供を求める神が少女の家に白羽の矢を立てることから、「白羽の矢が立つ」のは犠牲者として選ばれることだとの意味を載せています。もっとも、いずれの辞書も上で引いた二つの辞書の説明と同様に、「犠牲」と「選抜」の両方の意味合いを記載しており、由来としては犠牲者につながるものだとしても、現在の用法がそれに縛られるものではないことを示しています。
思いがけなく、逆らえない
現代の用例としては、現代日本語書き言葉均衡コーパス「少納言」を見ても、また毎日新聞の記事データベースでも、特に「犠牲者」を指すような使い方はほとんど見かけません。ただし、何らかのニュアンスを伴う言葉であるようには見えます。たとえばこのように。
当時の田村元(はじめ)衆院議長に手招きされ、「海部君、えらいことになるぞ。断るなよ、君が総裁になるんだよ」と伝えられた。(中略)恩師・三木武夫元首相の遺訓「信なくば立たず」を胸に、その「クリーンさ」を守ったがゆえに白羽の矢が立った。
毎日新聞に載った海部俊樹元首相の評伝の一部ですが、この「白羽の矢が立った」には、本人の意思を超えた思いがけなさと、抵抗を諦めさせるような逆らいにくさがにじんでいるのではないでしょうか。こうした意味では、神の選ぶ人身御供のような含意は生きていると言えるかもしれません。
ニュアンス生きる使い方を
アンケートの結果から見ても、現在において「白羽の矢が立つ」という言い方を、犠牲者として選ばれるという意味で使うということはまずないと言ってよいのではないかと思います。とはいえ単に「選ばれる」と等価であると考えるのではなく、独特のニュアンスを含んだ表現として扱うのがなじむのではないでしょうか。
(2022年06月30日)
2022年の囲碁の本因坊戦は第2局が熊谷ラグビー場で開催。スポーツの競技場で囲碁のタイトル戦が行われるというのは異例のことで、埼玉県版の記事では熊谷開催について「会場として白羽の矢が立ったのは、熊谷ラグビー場」と伝えました。数もあろう会場候補の中から特に選び出された、というポジティブな意味合いで「白羽の矢が立った」と表現されています。▲もっともこの言い回しについては、まず「多くのなかから犠牲者として選ばれる」(日本国語大辞典2版)という意味を載せている辞書も少なくありません。「人身御供(ひとみごくう)を求める神が、その望む少女の住家の屋根に人知れず白羽の矢を立てるという俗説から」(同)との説明に見られるように、「白羽の矢」は理不尽な運命のシンボルでもあったわけです。▲しかし近年の毎日新聞の用例を見ても、犠牲者として選ぶという意味で使われている例はありませんでした。もしかすると既に、選抜・抜てきという意味でのみ使われる言葉になっているかもしれません。皆さんはどのように使うでしょうか。
(2022年06月13日)