「マニフェスト(政権公約)の一丁目一番地」。最優先事項という意味です。「一丁目」。慣用句として通用するほど、どこにでもある住所と言えるでしょう。新聞記事で実際の住所を書く際は洋数字を使い、例えば「2丁目」は「2」と省略します。
しかし、例外もあります。ある日、原稿に「2丁」なる表記を見掛けました。いつも通り「2」と直すことも考えましたが、削りミスと判断し、とりあえず「2丁目」に直したところ、先輩からお叱りを受けました。「2丁」で正しいというのです。それは堺市の住所でした。実は堺市では、後に編入された一部の区域以外は全て「○丁」と、「目」が付かないのです。
市の戸籍住民課で、由来について伺ってきました。慶長20(1615)年の大坂夏の陣で焼け野原となった堺は、「元和の町割り」と呼ばれる江戸幕府の区画整理で碁盤の目状に生まれ変わりました。これによって人工的に区切られた町の一つ一つが、現在の「丁」の単位に相当すると言われています。丁の名称となったのは明治5(1872)年の町名改正の時ですが、もともと一つの町だったものに町を区分する単位である「丁目」を当てるのはふさわしくなく、町と同格の意味で丁を用いた、というのが有力な説だとか。
堺市には1960年代以降に開発された泉北ニュータウンという新興住宅地がありますが、こちらも全て丁。「丁」の伝統は市議会での議論を経て現代まで受け継がれているとのことで、そう考えると間違えられません。
地名には私たちが当たり前だと思っていた表記とは異なるものがある、と再認識しました。もちろん、「マニフェストの一丁一番地」などと書かれていたら、こちらは即座に直してよいでしょう。それが「堺市」関係の選挙のマニフェストでもない限りは……。
【植松厚太郎】