東日本大震災の報道では、岩手県大槌町という町名をたびたび目にした。同町には小鎚という地名があることも初めて知った。「大槌」は木偏だが、「小鎚」は金偏だ。
違いを知るようになったきっかけは、次のような文章を見逃しそうになったことだ。「岩手県の大槌湾にそそぐ小槌川」。正しくは「小鎚川」である。出稿元から直しがきて、訂正は免れた。気になっていろいろ調べてみると、「小槌川」と表記された地図や地名事典をいくつも目にした。「オオツチ」が木偏だから「コヅチ」も木偏だと思い込んでしまったのだろうか。
前回の当欄でも書いたが、間違えやすい地名は、その由来を知っていれば頭に入りやすいのではないか。「遠野上郷大槌町物語」(あるちざん社)によると、大槌・小鎚の地名は「鬼打ち伝説」と呼ばれる民話から来ているらしい。以下のような、印象的な「由来」が書かれてあった。
「昔、この土地によそから移り住んできたかじ屋がいた。そこへいつの頃からか鬼が現れ、仕事場をのぞいたり家の柱を揺すったりして邪魔をするようになった。怒ったかじ屋は大きなつちと小さなつちで鬼を追い払った。その後つちは川に捨てられ、鉄でできたつち(小鎚)は川底に沈み、木でできたつち(大槌)は浮かんだまま海に流れていったが潮によって岸に戻され、一つ北の川筋の河口に漂着した。ここから、それぞれ小鎚川・大槌川と呼びならわされるようになった」
次に出てきた時は、これで間違わないようにしたいと思う。