台風、地震、津波など、身を守るために予報や被害に関する情報を確実に理解して行動すべきだが、そこで使われている「●●地方」がどこなのか、普段から理解していないと緊急時に慌ててしまうかもしれない。改めて確認しておくことが重要だ。
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「東日本から西日本」は全国を表すのか
伊勢湾台風を代表格に、戦後の暴風雨被害は数知れない。どの被害が最も大きかったかといえば、台風の規模や犠牲者数など、数字で表して順位をつけることもできるが、やはり自分自身が実際に遭遇した台風の記憶の中から「最悪」が決まるのではないか。
強い勢力の台風がやってくると聞けば誰しも警戒するが、天気予報で台風の進路が自分自身や友人、家族などが暮らす地域を外れていれば、一瞬ほっとして、そのあとに直撃地域の人たちを心配するのだろう。
例えば天気予報で「東日本や西日本で強い雨が降る」と聞けば、「全国で強い雨が降るのか」と思う人がいるかもしれない。ところが、この予報の通りなら「北日本」と「沖縄」には雨が降らないのだ。
北日本は北海道・東北地方、東日本は関東甲信・北陸・東海地方、西日本は近畿・中国・四国、九州北部地方、九州南部地方が含まれる。辞書などでは「九州」という地域区分に沖縄を含む解釈と含まない解釈があるが、気象については九州と沖縄は別枠だ。
関ケ原の戦いの東軍、西軍が有名なせいか、通常は日本全体を東日本・西日本と二分して捉えている傾向がある。天気予報アプリで、最近は自宅と隣町で違うデータが表示されるなど、きめ細かく分析されているぐらいだから、いくら「概況」であっても、東日本と西日本だけで列島の予報を出すのは無理がある。やはり北日本と沖縄も分けて注意を呼びかける必要があるだろう。
「東海」「近畿」はどの地域なのか
天気予報の説明で「東海」「近畿」などの用語を使ったが、これが「どの地域」を示しているかというと、ちょっとややこしい。気象情報とは別に、辞書で「中部地方」と引けば、新潟・富山・石川・福井・静岡・愛知・山梨・長野・岐阜の9県を指すが、民間企業の「中部支店」では愛知・三重・岐阜を管轄している例もある。「東海3県」といえば、上記の三つを指すイメージだが、「東海地方」とすると、ここに静岡を含める場合もある。天気予報では静岡を含む4県の東海地方が東日本に含まれている。
「関東」と「関西」は、かつては鈴鹿(三重)・不破(岐阜)・愛発(福井)の関所を境にして、日本を二分していた表記だが、現在では関東といえば、東京を含む首都圏と北関東までを指すことが多いし、関西は京都・大阪・兵庫を中心に、奈良・和歌山・滋賀を加えるかどうか。この関西に三重を加えて近畿地方とすることもあるが、天気予報で西日本に入る近畿とは、三重を含まない関西の6府県を指す。
地域区分と「地元」意識は別
日常会話で気象情報の区分を使うことは少ないだろうが、他の地域区分を使う時は、「どこからどこまで」の概念が相手と一致しているかどうか注意が必要だ。現在の47都道府県は、明治維新後に画定されたもので、それ以前の「国の境」は違っていた。
現在の県でも、県庁所在地から離れた県境近くの土地から見れば、県庁所在地より県境を越えた隣町に親近感を持つことも多い。かつては同じ「藩」だった場合もあるから、そういう感覚は理解できる。
「北陸」は、新潟、富山、石川、福井の各県を思い浮かべるが、新潟を含むかどうかは状況によって分かれる。「関東甲信越」のように、新潟が別のグループに入ることもある。
毎日新聞では新潟支局は東京本社に属し、富山支局は大阪本社所属だ。本社単位の手続きでは、新潟と富山はそれぞれ別の本社とやりとりをする。ただ、新潟支局の勤務経験者に聞くと、新潟・富山の県境付近の事件・事故については、支局同士で連携しながら報道することはよくあるそうだ。あくまで地元感覚では親しい「お隣さん」なのだ。
神奈川のようで東京という土地柄も
東京郊外の遊園地、「よみうりランド」(東京都稲城市矢野口4015の1)の敷地は稲城市と(神奈川県)川崎市にまたがっている。最寄り駅の京王よみうりランド駅は稲城市で、もう一つの小田急線読売ランド前駅は川崎市多摩区が所在地だ。
もともと稲城市は神奈川県の一部だった。1893(明治26)年に神奈川県南多摩郡が東京府に編入されたのだが、この南多摩郡に属した稲城村が稲城町となり、1971(昭和46)年に稲城市制施行と同時に、南多摩郡は消滅した。稲城市から見て、都心より川崎市の内陸部の方が近しいと思えるのは無理もない。
南多摩郡(町田市、日野市、八王子市ほか)と同時に東京へ編入されたのが西多摩郡(青梅市、福生市、あきる野市ほか)と北多摩郡(立川市、武蔵野市、三鷹市ほか)で、南と北は市制以降に通常行政では消滅し、西多摩郡だけが市制移行で自治体を減らしながらも、奥多摩町、瑞穂町、日の出町、檜原村が残っている。
こうした「東京西部」の総称として、かつては「三多摩」という呼び方があった。北多摩、西多摩、南多摩のことだ。行政区分では市町村に分かれるけれど、都心から離れた広い地域をまとめて表す時は便利な名称だった。しかしながら、地域が広すぎて気象アプリでも「三多摩」の予報は成り立たないかもしれない。
情報の地域区分を確認しておこう
ニュース原稿に地名や地域区分が出てくれば、事実誤認や説明の矛盾がないか、校閲作業で確かめていく。一方で、読者にとっても「確認」は必要だ。行政上の区分と、住民の感覚的な区分、気象などの情報区分はそれぞれ違うが、身の安全を図るような時は、入手した情報について「それはどの地域のことを言っているのか」と改めて押さえておくべきだろう。