先日読者の方から、学習指導要領の「カイテイ」について、文部科学省は「改訂」としている(上の画像は文科省のサイト)が、毎日新聞が「改定」としているのはなぜか、というご質問をいただきました。同音異義語の使い分けはこの仕事の最も悩ましいところの一つですが、先人の考えが蓄積された部分でもあります。それをひとつなぞってみることにしましょう。
毎日新聞の記事作成の基本を定めた毎日新聞用語集では
改定〔一般用語〕運賃の改定、学習指導要領の改定、給与改定、購読料の改定
改訂〔本などの一部を直す〕改訂版、字句の改訂、辞書の改訂
という使い分けをしています。
つまり、一般用語として大概のものは「改定」が適切と考えており、上記のように学習指導要領も用例に入れています。それに対し「改訂」は本などの一部を直す場合として限定的なものとしています。
ちなみに他社の用語集を見ますと、読売新聞、産経新聞、共同通信、時事通信は、定義の微妙な差はあるものの、毎日新聞と同様「学習指導要領」を「改定」の使用例に挙げています。放送も含めた日本新聞協会用語懇談会で合意された新聞協会の用語集に「学習指導要領の改定」と記載されている通り、それにのっとったものです。
朝日新聞は「学習指導要領の改訂」という用例をとっており、他社とは異なるとらえ方をしています。日経新聞の用語集は「学習指導要領」を用例に入れていませんが、紙面の実態としては「改訂」としているそうです。
文化庁の出している「言葉に関する問答集」ではだいたい次のように定義付けされています。
「改定」の「定」は「さだめる」という意味。一方で「改訂」の「訂」は「ただす」という意味。文字の意味から考えると、「改定」は「旧来のものを改めて新しいものを定める」という意味になるのに対し、「改訂」の方は「正当でなくなったものを改めて正当な形にただす」という意味になる、と。つまり改めるということについては同じでも、その改め方が「新しいものを定める」か「正当でなくなったものを正当な形にただす」かの違いというわけです。
ただ、次のような記述もあります。
「『改定』と『改訂』の意味の違いは微妙であり、ただそれぞれの力点の置きどころが異なるにすぎないとも言えるのである。そこで、このように意味の似た紛らわしい用語のうち必ずしも使い分けを要しないものについては、いずれか一方に統一することが行われるようになった。『法令用語改正要領』 (昭和29・11、内閣法制局)において『統一して用いる』という中に『改定・改訂→改定』が示されているのもこのためである」
内閣法制局のこの見解が示されたため、これ以後に作られた法令では専ら「改定」が使われることになりました。
結局、学習指導要領をどう捉えるかでどちらの「カイテイ」になるかが決まります。学習指導要領は大部な書類で見かけは書籍に近いかもしれません。しかし、その内容が学校教育の内容や先生方の授業をある程度規定するという意味で、法令に近い性格を持っていると考えるほうが無理がないと思われます。学習指導要領について「改定」とする根拠は、こうした経緯によるものです。
【原田幸治郎、松居秀記】