YouTubeチャンネル「#有隣堂しか知らない世界」を制作する方々へのインタビュー第3回。企画から編集までを伺いました。「そぎ落とす」ことの大切さは新聞記事にも通じると感じます。#ゆうせか
YouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」が人気の書店「有隣堂」を訪ねた毎日新聞校閲センターの大庭穂香と平山泉がお話を聞く第3回。前回は「R.B.ブッコロー」誕生について伺えたので、今度は毎回のテーマ決め、編集について尋ねました。
【大庭穂香】
【インタビューに応えた方々】(「有隣堂しか知らない世界」制作チーム)
阿部綾奈さん(有隣堂社長室デジタルクリエイティブチーム)
ハヤシユタカさん(チャンネルプロデューサー)
R.B.ブッコローさん(チャンネルMC、ミミズクのキャラクター)
【話題に登場した方々】
松信健太郎さん(有隣堂代表取締役 社長執行役員)
渡辺郁さん(有隣堂広報・マーケティング部)
市川紀子さん(有隣堂広報・マーケティング部、今回の取材に対応)
平山:毎回、テーマやゲストを決めるのはどのようにしているのかを伺いたいのですが、そもそも専従担当者はいるのでしょうか。
阿部綾奈さん:(2024年)9月からはデジタルクリエイティブチームという専属のチームができて、そのメンバーで進めています。その前までは広報・マーケティング部という部署が担当していました。テーマに関しては、いろいろなやり方があります。まず社内ですと、うちの社員に非常に熱量を持っている文房具バイヤーや書籍のバイヤーらがおり、「こういうテーマでしゃべりたいです」と言ってくるとか、世の中のトレンドに合わせてこういうテーマをお話しできます、注目ですといった提案をもらうといったことがあります。それを社内でもんで、(プロデューサーの)ハヤシさんに持っていき、どんな構成にするのがいいかと打ち合わせする――そんな感じです。
社外のゲストの方については、本当にありがたいことに最近は持ち込みもすごく増えていて、皆さん「ぜひ出させてください」と。販促の目的での持ち込みが多いですが、動画としては販促ありきではなく、視聴者にどういった企画だったら一番喜んでもらえるか、視聴者に「刺さる」かを打ち合わせしながら進めていきます。
大庭:なるほど。
R.B.ブッコローさん:ネタ探しとかネタ選別の専任はいないので、いろんなベクトルからですよね。社外からこういう企画がと出されたものを、単なる宣伝にならないようにするためには、この人もう一つくらい何か面白いものを持っていないの?と投げ返すことも。「実はこういうのが……」と返ってきたものを、それなら宣伝っぽくならないからいいかなとか。
平山:いろいろなところからいろいろな方法で集まるネタについて、相談してということですね。
阿部さん:もちろん手足を動かして探すことも多々ありますが。
大庭:動画を見ていると、「推し」を持っている方が多いなという印象があって、それも、ものすごい熱量を持った方が多いのかなと思います。そういった方々はどういうふうに探しているのかということと、どこまでの熱量を持っていれば動画に出してもいいと思えるのかというところが気になっていたのですが。
阿部さん:社内に関してで言うと、こういう業界でもあるので、わりとオタクが多いということはありますね。文房具がすごく好きでとか、本のこの分野が好きでというところで、社内では目立ってもいるので。特に今うちのメイン出演者である岡崎(弘子さん)や間仁田(亮治さん)は、そんな形でした。こちらから声をかけて、ぜひあなたの好きなことをどんどんしゃべってよという形が多いですね。どれくらいの推しがあれば出られるか……ハヤシさん、どうでしょうか。

メイン出演者の岡崎弘子さん(中央)と間仁田亮治さん(右)
https://www.youtube.com/watch?v=MKt4vO3SqRo
ハヤシユタカさん:そこは言語化できたらとても楽なんでしょうけど。まあ、話してみて判断ってところですね。だから必ず事前にミーティングはするようにしています。いわゆる大物と呼ばれているゲストの方でも、事前に時間はいただいて、なるべくお話しするようにしてます。この間タレントのにしおかすみこさんが出演されたときも事前に時間をいただいてミーティングしていますし。
ブッコローさん:MCからすると、(熱量は)大きければ大きいほどやりやすい。
平山:あ、そうなんですか。
ブッコローさん:それはもう。でも社外社内問わずですけど、僕が振ってもいないのに、ゲストが「まずは」と勝手に進めちゃうときは、ああこれは楽な回だなって。
例えば、大平雅代さんっていうアトレ恵比寿店の方が、手ぬぐいがめちゃくちゃ好きなんですよ。で、「大好きな手ぬぐいを紹介したい!」ということだったので、やってもらったんです。「手ぬぐいなんか使いますか?」みたいなところから話したら、「まずブッコローさんに見てもらいたいのが!」って言って。こっちが振ってもいないのに。もうバンッて「これはね!」みたいに言ってくる。そういう時はMCとしてはすごく楽ですね。

手ぬぐいへの思いがあふれる大平雅代さん(右)
https://www.youtube.com/watch?v=OHednjDty2g
平山:もう勝手にどんどん。
ブッコローさん:はい。MCからすると、熱量はあればあっただけ楽です。
平山:撮影に1時間半かかることもあるそうですが、非常に長い時間かかったものを編集するときに、どういうところに気をつけたり工夫したりしていますか。
ハヤシさん:編集に関してはいっぱいあるんですけど……。一つは情報の凝縮です。今、タイムパフォーマンスという言葉がはやっているくらい、世の中の人は時間をとても大切にしていますよね。動画も、昔はテレビの前でゆっくりソファに座って見るというスタイルでしたけど、今はスマートフォンを持って、トイレの中で少し空いた1分間だけ見ようとか、電車を待っている間に見ようとか、エスカレーターに乗っている間に見ようとかっていう、わずかなすき間時間を使っているという中に、1時間の動画なんて見ていられないわけですよ。短いに越したことはないという中で、僕が今しゃべっている「あのー」とか「えー」とか「おー」とかいうのをとにかくバンバンバンバン切っていく。余韻もとにかくバシバシ切っていく。これはYouTube特有の手法なんですけど、それはすごく意識していますね。
「この文房具はこういう機能でこういう色がかわいくてこうなんです」としゃべっているだけで1時間くらいあるのを余韻や間を極限までそぎ落として10分くらいにするっていうことをやっています。今のYouTuberは誰でもやっていますけど。
もうちょっと言うと、60分の1秒単位で調整してます。
平山:それで1時間半が……。
ハヤシさん:もちろんそれだけではダメで。編集のやり方はいっぱいあるんですけど、大体1時間ぐらい撮ったものを、まず余計な余韻などを切っていき、それでは45分から50分くらいにしかならないので、そこからどんどんどんどん(削る)。皆さん記者の方だから、インタビューをこれだけとっても、紙面に載せるためには整理すると思うんですけど、それと同じことを動画でもやっていく。
たまに20分を超えたりする動画もあるし、前後編になっちゃうこともあるんですけど、基本はやっぱり短いに越したことはない。動画は短くて良いものっていうのが最適解なので、とにかく短くする。短いがすべて正しいっていうこだわりを持って短くしています。
大庭:動画内の字幕や商品名を校閲している方はいらっしゃるんでしょうか?
阿部さん:校閲と呼べるかどうかわかりませんが……商品名や値段はデジタルクリエイティブチームのほうで確認をしています。
ハヤシさん:言い間違いもやっぱり怖いので、台本ほとんど書かないって言ったんですけど、固有名詞とかはしっかり書くようにしているんです。ただ、それでも間違えるのが文房具バイヤーだったりするんですけど。お前が間違えちゃだめだろみたいな人が間違えたりとかして。
ブッコローさん:ついこの間もね(苦笑い)。
ハヤシさん:今週公開の動画なんてマジでもうひっくり返ったよ。
ブッコローさん:全く商品名が違ったんですよ
ハヤシさん:全く違う。紹介している商品と固有名詞が全く違うんですよ。もうびっくりしたよ。
大庭:そんなことがあったんですね。
ハヤシさん:気づいて良かったよ。
阿部さん:そうですね……。
ハヤシさん:危なかった。
ブッコローさん:収録現場で「いや違いますよ。商品名違うじゃないですか」って誰かが言ってきたんですけど、あまりにも普通に……。
ハヤシさん:びっくりしたよ。あれ本当マジで……。
平山:完全に思い込んでしまったということですね……。
こうして編集作業のことを伺えたので、次回は収録当日のことや今後の展望について尋ね、締めたいと思います。
(つづく)