YouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」を制作する方々に伺う第2回。人気のMC「ブッコロー」が生まれるまでにはどんな経緯が? そして、ブッコローさんのあの軽妙なトークの力はどのように鍛えられたのか?
YouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」が人気の書店「有隣堂」を訪ねた毎日新聞校閲センターの大庭穂香と平山泉がお話を聞く第2回。いよいよMCであるR.B.ブッコローさんに迫ります。
【大庭穂香】
(前回はこちら)
【インタビューに応えた方々】(「有隣堂しか知らない世界」制作チーム)
阿部綾奈さん(有隣堂社長室デジタルクリエイティブチーム)
ハヤシユタカさん(チャンネルプロデューサー)
R.B.ブッコローさん(チャンネルMC、ミミズクのキャラクター)
【話題に登場した方々】
松信健太郎さん(有隣堂代表取締役 社長執行役員)
渡辺郁さん(有隣堂広報・マーケティング部)
市川紀子さん(有隣堂広報・マーケティング部、今回の取材に対応)
平山:チャンネルのタイトルが決まり、MCがゲストの好きなものの話を聞くといった形式が決まり、そして、MCのブッコロー……。ブッコロー誕生、そしてブッコローの「中の人」が選ばれたという経緯は。
R.B.ブッコローさん:ある日突然、電話がかかってきましたね。
平山:いきなり……電話でですか?
ブッコローさん:電話がいきなりかかってきて……。まあ元々知り合いだったんですね、ハヤシくんと。でも8年くらいお会いしていなくて。8年会っていなくて、電話があるっていうのは、まあ大体、金貸してか宗教かネットワークビジネスかのどれかかなと思って(笑い)。最初、そっと見なかったことにしようかと思ったんですけど、珍しいな、まあ出るかと思って出たら、「有隣堂って知ってますか?」って。
で、神奈川県に行くことも結構あるので、知ってるよって言ったら、じゃあ話が早いですねっていうことになって。有隣堂はそこらじゅうにあると思っていたんだけど、「いや実は全国チェーンじゃないんです」って。
平山:なるほど、神奈川にいると当たり前だけど……。
ブッコローさん:「もしかして神奈川県うろちょろしてますか?」と聞かれたので、ああ仕事でうろちょろしているよって。「有隣堂を知っているんだったら話が早いですね」というところから。ハヤシさんは有隣堂の社長と知り合いで、社長がYouTubeチャンネルを作りたいということなので、僕がプロデュースして手伝うことになった――と言うわけです。で、何なの?ってなるじゃないですか。そしたら「MCをやっていただきたいんです」って。はあ?ってなるじゃないですか。
で、いやー、ちょっときつい、やりたくない(と言った)。「マジですか。絶対ダメですか」「いや絶対ではない」「じゃあやりますね」「まあじゃあ……」
ハヤシユタカさん:そのへん、違うから。即断だったから。
ブッコローさん:違う違う違う。僕は即断するはずがないです。単なる一般人なので。
ハヤシさん:断らないから。
ブッコローさん:確かに断ってはいないけど、どちらかというと後ろ向きだったから。その証拠に、僕はP(プロデューサー)に声を変えてほしいとオーダーしてるんですよ。 前向きに「おう、やるよ!」と言っていたら、「えっ、ちょっと収録日決まったら言ってよ、美容院行ってくるから」みたいな話じゃないですか。だから顔も何もかも出さず、知られないということだったらまあいいかなみたいな。
で、まあいやいややったわけじゃないんですけど、何かこれも縁なのかなあと思って。
そういう縁に今までの人生、乗っかってきていて、この流れに乗るんじゃなかったということは、あんまりないんですよね。だいたい乗っかったことはいい方に転じていたので、まあ8年ぶりに連絡が来てということなら、これも何かの縁だなあと思って引き受けることにしました。
平山:そもそもなんで8年も会っていない方にオファーを出したんでしょう。
ハヤシさん:僕らは共通認識として、この動画でとても大切なものは「素直さ」だというのを持っています。というのも、一つのことについて、バイヤーとかが「どうですか、この文房具」みたいな話をしたときに、ああいいですねというリアクションは素直なものでいこうというのがこのチャンネルの根幹であると当初から考えていたんです。当初は素直という言い方じゃなかったかもしれないですけど。
この素直さをトークという形で表現するためには、フリートークが大切だと。企業チャンネルは、めちゃめちゃ進行台本を固めて、この通りにしゃべってくださいねみたいな形でやっていくことが一般的でしょう。その方がミスはないし、間違いないものができるけれど、それだと素直な動画というのは生まれないと思うんです。逆に台本がほぼなくて、ほとんどがフリートークで締めるような、そんな収録をしなければならないなと考えた。それには、次々と思ったことを口に出してくれるような楽しさ、面白さ、頭の回転の速さみたいなトーク力がとても大切だなと思いました。そこで、自分の当時三十何年の歴史をばーっと振り返って、一番そこに適しているのはこの男だなと、最初に思い浮かんだんです。それで電話をしたんです。だから、アナウンサーとか司会が得意なような人とか、ナレーターで滑舌がいい人っていうのは逆に全然必要なくて。回転の速さとか、次々と思ったことが言葉として出てくる、その能力、スキルといったものがあるのはこの人かなあと思ったので。
(ブッコローさんに)こういうこと。
ブッコローさん:はい、私しかいませんでした。
平山:(笑い)いや、本当にそうなんだろうなと思います。だって(頭の)回転速いですよね。
ブッコローさん:でも、あの日僕が断ったらどうしてたの?って聞いたら、自分でやっていたって。
ハヤシさん:まあ当初、彼に声をかける前は、自分でやるつもりだったんです、実は。その方が圧倒的に楽なんですよ。動画の編集も自分でやった方が楽。現場を自ら仕切ることができて、それを編集に落とし込むことができますから。ゲストに言ってほしいことの引き出し方みたいなのも全部自分でコントロールできたりするし。
けれども、一回テスト動画を撮った時に僕が中の人をやったんですけど、思ったのが、素直さが出てこないなと。というのも、ディレクターとして場を仕切る以上、ゲストの方との事前打ち合わせが必要じゃないですか。第1回のゲストは岡崎弘子さん(有隣堂の文房具バイヤー)って人だったんですけど、「私、昔『テレビチャンピオン』(テレビ東京の番組)に出てたんです」っていう話をして、それを聞いた瞬間に「えーっ!マジですか!?」っていうのが普通のリアクションなんですけど、僕は打ち合わせでその話を聞いていたわけで、動画を撮るときに「テレビチャンピオンに出てたことがあるんです」って聞いても、もうリアクションが取れない。素直な反応ができないわけですよね。

テスト動画で使用していたパペット
だから、僕がやった方が絶対早いと思っているけれど、素直な反応、素直な動画というところを出すためには、だれかを捕まえなきゃいかんなあと思ったわけです。
平山:弊社でもイベントを隔月でやっているのですが、打ち合わせをあまりしっかりやってしまうと、当日の「えーっ!びっくり!」がなくなってしまいます。時間の制約はあるし、筋は決めなきゃいけないので、打ち合わせはするのですが。
ブッコローさん:うち、全く台本ないですよ。
平山:え、全くですか。
ブッコローさん:それに、ハヤシPは有隣堂側ともゲスト側とも全部を取り仕切ってやるんですけど、僕との打ち合わせはしないです。
ハヤシさん:(ハヤシさんとブッコローさんとは)ゲストを巻き込まないでやってる。
ブッコローさん:打ち合わせをしないといってもごあいさつはするので、ゲストの方と「緊張されていますか?」みたいに、僕も緊張をほぐすために言うんですけど、そのカメラの回っていないところで面白いこと言っちゃったみたいなことがあったりするので……。信じていただいて、もういいようにやらせていただいています。
台本がないことのスーパーデメリットとして、めちゃくちゃ収録時間が長いです。10分の(動画をつくるのにかかるの)が平均すると1時間半……。
ハヤシさん:平均すると1時間半はいっていない。
ブッコローさん:平均すると1時間くらい?
ハヤシさん:1時間超えが当たり前になって……あれはほんときついよ。
ブッコローさん:45分とかで終わったらもう褒められる感じです。でも動画にまとまったら大体8分から10分なんで。まあ、長いものを短くした方がいいものができるって感じではありますね。
平山:台本はどうしているのかなと思っていたので……なるほど。そういうふうに、いきなりやっても大丈夫だ、この人ならということがあって、オファーしたわけですね。
ハヤシさん:そうですね。
ブッコローさん:でもオファーされた側は大丈夫かなあと思っていましたよ。最初のうちは。本当に。緊張していたと思います。
平山:今は大丈夫ですね。
ブッコローさん:はい。「テレビチャンピオン」に出ただけの普通の女性に「このガラスペンかわいいでしょう?」って言われたときは大丈夫かいなと思いましたけどね。
平山:ブッコローさんがいい感じに突っ込みを入れているから。
ブッコローさん:まあそうですね。なんとかなったんでしょうね。
平山:本当に当意即妙というか……。
ブッコローさん:豆苗ですか?豆苗?
平山:当意即妙(笑い)。
ブッコローさん:当意即妙……初めて聞く日本語。
平山:まさにその、いきなり知らない言葉を言われても黙ってしまわず(「豆苗?」と)いい感じに返すとか。
大庭:その語彙(ごい)力やワードセンスは、勝手に培われたものなのか、それとも意識して培ったものなのでしょうか。
ブッコローさん:語彙力は培われましたね。これは毎日新聞さんに載せられるかどうかわかりませんけど、合コンです。完全に。
大庭・平山:ああ……。
ブッコローさん:中年のおじさんになると言葉が出てこない人っていっぱいいるようなので、世の中の偏差値でいうとトーク力は高いとは思うんですけど。それが何で培われたかというと……本はほぼ読まない、漫画もそこそこ、映画もそこそこ、テレビもそこそこなので、やっぱり合コンですかね。あと、興味のないジャンルがないです。このチャンネルのMCに向いていただろうなとは思います。そのジャンルは全く知らない、ごめんなさい、無理です――ということがあんまりないです。嫌いなジャンルがないというか、あまりにも苦手なジャンルがない。興味のないジャンルがなくて、全部興味あるんですよね。
平山:なるほど。それも大事。
ブッコローさん:そうですね。興味があるジャンルが多いのと、本当に合コンで人とばっかりしゃべっていたら、なんとかなったなっていう感じはありますね。
大庭:確かに、いろいろな人と、好きになってもらうためにしゃべるのは一番トーク力が培われそうな気がします。
ブッコローさん:そうですそうです。

このスタジオで、ブッコローさんは合コンで培った語彙力を存分に生かしている
平山:合コン大事……。
ブッコローさん:合コンめっちゃ大事です。
大庭:合コン大事かも……やっとけばよかったかも(笑い)。
ブッコローさん:例えば、趣味なんですか?って聞いて、一回もやったことないのに「ロッククライミングです」って言われたときに、ふうんって言うだけなら、もう終わりなんですけど、え!やったことない! え、どこでやんの? え、そんなとこに施設あんの? それ何で行くの? え、用具重いの? え、用具借りるんだ! それレンタル料っていくらなの1日? へえ、意外と高いね、落ちたときの保険ってあるの? あっ保険はないんだ、じゃあけがをしたら実費だ――とか。そういう、興味プラス実践です。
どのジャンルも深く話を聞いてつまんなかったことがないので。そんな感じですかね。培われたとすれば。
平山:なるほど、人選は大成功ですね。
ブッコローさん:だと思います。
こうして人選に成功した「有隣堂しか知らない世界」。次回はテーマ選びや編集について伺います。
(つづく)