梅雨や台風、時雨など、日本の季節には雨が付き物。雨にまつわる日本語は数多くありますが、中でも「雨模様」というありふれた言葉が校閲記者の悩みの種となっているのをご存じでしょうか。
小雨が降る空という意味で理解されがちな「雨模様(あまもよう・あめもよう)」ですが、本来は雨が降り出しそうな「曇り空」のことで、実際に雨が降っている空のことではありません。辞書を引いても、「雨天」の語意を採用しているのは「明鏡国語辞典」など一部に限られ、逆に「岩波国語辞典」には「雨の降る様子を言うのは誤用」と書かれています。毎日新聞も本来の意味で使用するよう心がけています。
しかし、いざ記事に「雨模様の空」が出てくると校閲記者は考え込んでしまいます。現地の天気が分からないからです。「嫌な予感」はしますが、別に文法や言葉そのものに問題があるわけではありません。校閲記者が記事の出稿元に問題点を指摘しに行く場合、あらかじめデータベースや辞書などを参照し、間違いの「証拠」をそろえてから行くのが普通ですから、嫌な予感だけを頼りに問い合わせるのは何となくためらわれてしまいます。
それでも、「雨模様」を見かけた校閲記者は一度出稿元に天気を確認します。現地で雨が降っていることはニュースとして価値がある場合が多く、「雨模様」もその意味で使われている可能性が高いからです。逆に、曇り空がニュースとして意味を持ち、しかもあえて「雨模様」という表現を選ばなければならないケースはあまり思いつきません。気後れしつつも「根拠はないのですが……」などと聞きに行くと、大抵は雨が降っていたことが判明します。校閲記者にとって「雨模様」は悩ましい言葉なのです。
この「雨模様」に関しては、日本新聞協会用語懇談会の昨年の議論で「両様に解釈できる表現は使わず『曇り空の下』『小雨が降る中で』などと具体的に書く」との指針が示され、各社が個別の検討に入っています。「雨天」の語意が広く浸透している現状に対応したものですが、結果として厄介な「雨模様」に悩まされずに済むようになるなら何ともありがたい話です。
【植松厚太郎】