校閲をしていて遭遇しがちなものの一つに「ニゴロ」があります。野球のセカンドゴロを表す「二ゴロ」をすべてカタカナ変換したケース。当コラムではフォントの違いが分かりにくいかもしれませんが、文字列で検索してみてください。カナの「ニ」は、漢字の「二」ではヒットしないはずです。これが今回のお題。このサイトの漢字クイズでも、過去に「カタカナのような漢字」というテーマの出題がありましたが、その中の一つ、「卜」に関する話です。
先日、卜部(うらべ)さんという人名が出てくる原稿を校閲していたときのこと。ふと、その近くの原稿にある、カタカナの「ト」とあまりにも似ていることに気が付きました。過去の新聞から漢字の「卜」を使った紙面を探し出して拡大してみると、カナの「ト」とは違う形。その原稿では、やはりカタカナの「ト」が使われているようだということで、直してもらいました。
この2字はとても似ていて、とっさには判別がつきません。フォントによってはほとんど差がなくなります。見た目がほとんど同じであれば、見分けることに意味があるのか、少し考えてしまいました。もちろん校閲者としては、人名などは特に、正しい字が使われているべきだと主張したくなりますが、なかには意味のないこだわりと感じる人もいそうです。
しかし、現在、新聞社はインターネットでもニュースを発信しています。さらに、日々のニュースをデータとして蓄積し、アーカイブを構築するという新たな役割も出てきました。そういう側面から見ると、別の字が入ることによって検索でヒットしなければ、やはり問題といえます。紙面の見た目さえよければ、という時代から移り変わって、新たな悩みが出てきたというところですが、そこは校閲記者の腕の見せどころ。職人芸を発揮して、正確なデータをお届けできるよう、頑張っていきたいと思います。
【水上由布】