「校閲記者からみた記事の書き方」と題した日本新聞労働組合連合(新聞労連)の若手記者研修会でお話しした内容をまとめた3回目です。
新聞校閲の仕事の流れを説明した1回目、実例を元に誤字や言葉遣いで注意していることを紹介した2回目に続き、今回は文章を読みやすくするためのポイントなどを紹介します。
目次
ややこしい「同」
新聞でよくあるのが、「同」が本来の意図とは別のものを指してしまうこと。
「米政権は17日、新たな対中制裁を今月24日に発動すると発表した。中国政府も同日、報復措置を取ることを宣言」とあった場合、校閲記者はまず「中国政府が宣言した『同日』というのは、17日ではないか?」と疑います。
この場合「24日に報復措置を取る」ことを宣言したとも受け取れるのですが、どちらにしても読者からしたらややこしいですね。また米国と中国では時差も大きいので、安易に直してしまってもいけません。
この記事では、なんと「同日」は「18日」に直りました。
こういった「同日」「同県」「同氏」などの例は、記事を紙面に収めたときに字数調整をする「削り」という作業でも発生しがちです。記事の途中の1段落をがばっと削ったときに、次の段落に書かれている「同県」が指していた県名がなくなってしまった――ということは、慌ただしい編集現場では残念ながらよくあることです。
1回目の記事で説明した「大刷り校閲」では、こういった誤りについてもカバーしています。
先述の例で、「24日に報復措置を取る」ことを宣言したとも受け取れる……と書きました。このように2種類の意味に取れてしまったり、読みにくくなったりしてしまう書き方もあります。
誤解のない語順
たとえば以下の文を読んで、みなさんは誰が「夢を諦めた」のだと思いますか?
「原田はジャズピアニストへの夢を断念し急逝した姉の娘を引き取って暮らしていた」
この文だと、「原田」が諦めたとも「原田の姉」が諦めたとも読めてしまいます。これを
「原田はジャズピアニストへの夢を断念。急逝した姉の娘を引き取って暮らしていた」
「ジャズピアニストへの夢を断念し急逝した姉の娘を引き取って、原田は暮らしていた」
と、文を切ったり主語を述語に近づけたりすることで改善することができます。
「、」で文章を整理
また、読点(「、」)の有無でも似たような現象が起こります。
A「政府は3日訪日観光客数が2000万人を突破したと発表した」
B「政府は、3日、訪日観光客数が、2000万人を突破したと発表した」
Aは「3日に発表した」「3日に突破した」のどちらにも取れてしまいます。Bは読点が多すぎて読みづらいですね。主語もあいまいになってしまいます。
読点などを整理して以下のように直すことで、読者に伝わりやすい文になります。
「政府は3日、訪日観光客数が2000万人を突破したと発表した」
「政府は、訪日観光客数が3日に2000万人を突破したと発表した」
新聞は不特定多数の読者に読まれます。背景を知っている人が読めばわかる記事でも、その記事を初めて読む人もいるのが新聞です。誰もが悩まずに読める文章を目指さなければなりません。
【斎藤美紅】