「こうじ」という漢字の字体について伺いました。
目次
大きな差はつかず
「こうじ」という漢字、どちらがしっくりきますか? |
読むのも書くのも① 25.6% |
読むのも書くのも② 30.2% |
読むのは①、書くのは② 29.8% |
②が①の異体字だと知らなかった 14.5% |
回答は割れました。簡易な②の字体が、印刷標準字体である①よりもやや優勢でしたが、大きな差はつかず。自分で書く場合には②を使うけれども、読む場合には①のほうがよいという人も3割を占め、字体というものへの複雑な態度が感じられます。
常用漢字表の「麺」は簡易な字体
「こうじ」の漢字には国字(日本で生まれた漢字)の「糀」もありますが、ここで問題になるのは「ばくにょう(麦繞)」を使った文字です。「麦」の旧字体は「麥」で、それを「しんにょう(辶)」のようににゅっと伸ばしたものが「ばくにょう」。これを含む漢字で一番よく使われるのは「麺」ではないでしょうか。
「麺」は、2000年の国語審議会の答申「表外漢字字体表」で示された印刷標準字体では「麵」という字体で、部首が麦の旧字に沿うものでした。しかし2010年に改定された常用漢字表で採用されたのは、簡易慣用字体と言われる「麺」。部首が新字体の「麦」に即したものになりました。
常用漢字表の改定を議論していた当時の国語分科会漢字小委員会の文書には、「『簡易慣用字体』を採用するものは、生活漢字としての側面を併せ考慮した」とあります。「麺」の字体が食品のパッケージなどで使われていたことから、こちらが選ばれたようです。
「1字種1字体」が原則だが…
「麦」も「麺」も簡易な字体が採用される中で、「こうじ」も見慣れない部首を持つ①よりは②のほうがなじみ深いのではないか――と思いましたが「読むのも書くのも①」という人が4分の1程度いたことはむしろ驚きでした。
今回のアンケートのきっかけになったのは、健康被害を起こしたとみられる「紅こうじ」を含むサプリメントのパッケージです。そこで②の字体が使われていたことから、新聞紙面上の表記で悩むことになりました。通常なら印刷標準字体の①を使うところですが、パッケージと字体が異なることで、読者への注意喚起の妨げになる可能性がないとは言い切れません。毎日新聞では当該のサプリについては②の字体を使い、それ以外では「紅こうじ」と平仮名を使っています。
新聞によっては①と②の字体が一つの記事中に混在しており、各紙とも判断に悩んだであろうことがうかがわれます。文章を社会に流通させる上で、漢字は一つの文字につき一つの字体を使うという「1字種1字体」の原則を維持することが望ましいのですが、その原則では対応しきれない実態があるとも言えます。
字体のブレが無用の混乱を生むのを防ぐ必要がある一方で、実際によく使われる字体を無視することも難しいでしょう。アンケートの結果は回答が割れましたが、6人に1人ほどが「①と②が異体字の関係にあることを知らなかった」と答えており、「やはり」という印象も持ちます。新聞も、原則を踏まえた上での現実的な対応を考えることが必要だと改めて認識しました。
(2024年05月13日)
「紅こうじ」を使ったサプリメントが健康被害を起こしたとみられることから、新聞ではあまり使うことのない、「こうじ」の漢字表記が頻出しました。印刷標準字体は①で、毎日新聞でも東京の「麴町」のような地名を記す場合には、①の字体を使っています。
しかし、問題になったサプリメントのパッケージに表示されているのは②の字体。標準的な字体とされる①の異体字に当たります。製品名としては簡単な字体を使いたかったのでしょうか。毎日新聞としての対応は、普通名詞の場合は「こうじ」と仮名書きにし、特定の商品については②の字体を使うというものです。
印刷標準字体を使わず、あえて異体字を使うというのはイレギュラーな対応ですが、今回は健康被害が起きたとみられる事案だけに「パッケージ通り」ということを優先した結果です。万が一の話として、①の字体で記事を載せた場合に、パッケージの②と違うので当該商品と気づかないでしまうなんてことも――というのは心配しすぎかもしれませんが、皆さんの字体に関する受け止め方は果たしてどんなものでしょうか。
(2024年04月29日)