ロシア連邦の略し方について伺いました。
目次
「露」が「ロ」を上回る
現在のロシア連邦と日本との組み合わせ。略して書くなら? |
日ロ 39.8% |
日露 60.2% |
日本とロシアとで国名を1字ずつに略してつなげるような場合、ロシアの略し方を「ロ」とするか「露」とするか。アンケートの結果は「ロ」が4割、「露」が6割でした。今なお「ロ」よりは「露」になじんでいる人が多いようです。
「ロ」で始まる国はロシアだけ
「露」は日本での漢字表記「露西亜」の頭文字を取ったものです。かつては「魯西亜」が多く使われていましたが、「魯」の字の印象が良くないと帝政ロシアの公使館から日本外務省に抗議があり、「露西亜」が使われるようになりました。1874年のことといいます(シャルコ・アンナ「音訳地名の表記における漢字の表意性について-ロシアの国名漢字表記を例として-」早稲田日本語研究第25号)。
「ロシア」という名称自体は、帝政ロシア時代も、ソ連時代を挟んで現在のロシア連邦になってからも変わりはありません。ですからロシアを「露」と表記すること自体に問題はなさそうに思えます。一方、「ロ」で始まる国名はロシアのみなので、「日ロ」と書いた場合に他の国と紛れるということはありません。その意味では片仮名の略称でも問題ないと言えます。
「露」は帝国の「露」?
回答すると見られる解説でも書きましたが、ロシアの略称は新聞社によって分かれています。朝日、日経、東京の各紙が「ロ」、毎日、読売、産経が「露」です。共同通信、時事通信はいずれも「ロ」としています。NHKもテレビで「ロ」を使っています。
共同通信の記者ハンドブック14版は
ロシアについては、帝政ロシア関連(日露戦争、日露通好条約など)は「露」とする。形容詞的に使う場合は慣用に従って使うことができる。[例](中略)ロ共産党
とあります。「ロシア」を「露」と書くのは帝政期を指す慣用であって、現在のロシアにはふさわしくないという考え方でしょう。日本経済新聞の用語集も
「露(ロシア)」については慣用の固定化した帝政ロシア期のもの(日露戦争、日露通好条約など)にとどめ、略記する場合は「ロ」を用いる。
としています。もっとも、日本外務省のウェブサイトでは普通に略称として「露」を使っています。帝政期と現時点とで表記を使い分ける感覚が広く共有されているとも言いにくいようです。
どちらを使ってもよし
今回のアンケートの結果では、6割が「日露」を選び、今なおロシアの省略表記としては「露」が根強いことを示しました。校閲センターのX(ツイッター)へのコメントでは「ロ」と「口(くち)」が似ているので視認性がよくないという声もありました。ゴシック体で表記されるのが普通の情報端末などでは、フォントによっては似てしまうというのは確かです。一方で「ロ」は手書きが楽だというメリットはあるでしょう。
メディアの使用実態が分かれていることから見ても、現時点においてはどちらかを選ぶという特段の事情はなさそうです。出題者の好みとしては「露」を選びたいところですが、皆さんもお好みの表記を使うということでよいのではないでしょうか。
(2024年07月15日)
ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記が会談。毎日新聞は「露朝」の首脳会談と報じました。「露」はロシアの略で、読売新聞、産経新聞も同様です。一方で朝日新聞、日本経済新聞、東京新聞の見出しには「ロ朝」とありました。ロシアを1字で略すのにカタカナの「ロ」を使っているわけです。
「露」の表記は「日露戦争」「日露通好条約」などでおなじみでしょう。ロシアの漢字表記としては主に「露西亜」が使われます。江戸時代から明治の初めには主に「魯西亜」が使われていましたが、明治になってからロシアの意向を受けて表記が変わったとのことです。
「ロ」で始まる国家はロシアだけなので、「日ロ」のように書いても紛らわしいということはありません。ただし現在のロシアに「ロ」を用いる新聞でも、表記の定着した歴史的な事項では「日露」のように書きます。ロシア帝国とロシア連邦で使い分けているとも読めますが、領土をほぼ継承して同じ呼称を掲げる国について、書き分けが必要かどうか。皆さんはどちらがなじむでしょうか。
(2024年07月01日)